「…ぱい、先輩…?朝ですよ、先輩?…神崎先輩…??」
襖の向こうから可愛らしい後輩の声が聞こえる。
しかし眠い。
コンコン、と襖を叩く音も、桜の声も、私には皆等しく子守唄にしか聞こえなかった。
桜は諦めたのか、ぱたぱたと軽い足音が去っていった。
私が昨晩遅くまで作業をしていた事は知られていたし(昨日ロンドンから帰ってきた凛に渡された魔導書を読み漁っていた)、おおめに見てくれたのだろう。
畳に布団は気持ちいい。
適度な冷気と暖かい布団。
幸せなことこの上ない。
ああ、眠い。
「…瑠衣、起きろ、桜は見逃しても私は見逃さないぞ」
「んぁ…あちゃか…やだねむいねる…おやす…ぅ」
「瑠衣!」
どこから現れたのかアーチャーが私を起こしに来たようだが、もう遅い。
私はまだ寝ると心に決めたのだ。
そうやってうだうだしているうちにアーチャーは私の枕元に立っていた。
ああ、もう、うるさい。
「…瑠衣、いい加減に……っ?!」
枕元の足をひっつかみ、勢いよく引く。
体勢を崩した隙を見て布団へ引きずり込めば、途端にアーチャーが焦り出す。
「っ、瑠衣、何のつもりだ」
「うるさいなら…あーちゃーも寝てしまえばいい…」
そういえば魔導書に眠気を誘う呪文が載っていたような気がする。
寝ぼけ眼でアーチャーに催眠呪文を使えば、先程までの威勢はなりを潜めた。
「…っく…催眠、か…凛も余計なことを教えたものだ…」
「ふふ、あーちゃもねむいよね、ねむ…うん、寝よ…」
ぎゅうとアーチャーを抱きしめて額をすりよせる。
外気に触れていたアーチャーの体温は少し冷たかったが、徐々に熱を持ちはじめた。
とくん、とくん。
人間となんら変わりのない心音に安心感をもたらされ、更なる眠気を誘われる。
あったかいな…。
「離し、たま…え…」
「嫌じゃないくせに……ん」
そっとこちらからキスを贈る。
どうせ満更でもないだろう。
どうせ眠気に負けはじめているのだろう。
「おやすみ、アーチャー…」
そして私は、夢の世界へと戻っていった。
昼過ぎに起きた時に、桜の様子がどこかギクシャクとしたものになっていたのは恐らく。
まあ、見られてしまったのだろう、添い寝を。
…今回はなにもやましいこともない、ただの添い寝だったんだけどなあ…
10/9
hollow期間二日目朝。
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