布団に潜り込んで早60分。
眠気がやってこない。
いつもならとっくに眠りに就いている時間だというのに、だ。
ぼんやりと視線を小窓へ移せばから青白い月の光が零れていた。
今日の月は一際明るい気がする。
月の光が眩しくて眠れないのだろうか?
なんて、冗談。そんな事はない。
不毛な時間も落ち着かず、諦めをつけて暖かいココアでも飲もうか。
だいぶ夜も肌寒くなってきたのでカーディガンを羽織って部屋を出た。
台所へ向かう途中、中庭付近でギルガメッシュを発見した。
青白い光に照らされてどこか妖艶な雰囲気を醸し出しており、不覚にも鼓動が速くなった気がする。
「どうした瑠衣。随分と熱い視線を向けてくるのだな?我の美しさに見惚れるのは仕方無かろう、そんな所に居らずに此方へ来るがよい」
「あっ、えっ」
どうやら気付かれていたらしい。
見つめてしまっていたことまで読み通されているようで思わず狼狽えてしまう。
アーチャークラスなだけはあって視力は良いのだろう。
まあ、この際は視力は関係無いのだが。
「来ないのか?まあ良い、我がそちらに出向いてやろうではないか」
ひょい、と重力を無視したかのように軽々とした跳躍。
二階へと華麗に降り立ち、そのまま私を抱き抱え、
「え?」
屋根の上へと連れ出されたのであった。
「いきなり抱き抱えて跳ぶなんてびっくりしたよ…せめて何か言って欲しかった…」
「別に問題なかろう、我が直々に動いてやったのだ。そこは喜ぶ所だと思うのだが?」
「いやそうじゃなくて…んーまあ、うん、ありがと」
会話がいまいち噛み合わない。
しかしお礼は言っておくに限るだろう。
自由奔放な王様ではあるが、優しいのもまた事実である。
ほだされてしまっているからそう感じるだけなのかもしれないが、そちらは気にしないでおくことにした。
「…眠れなかったのか?」
「うん」
空を見上げれば、いつもよりほんの少し月を近く感じる。
「あったかいもの飲んで誤魔化そうかと思ってたんだけどね、」
「ほう?」
夜風が少し冷える。
羽織ったカーディガンが風に煽られて脇腹に風が掠めていく。
月のような強い明かりを感じとる。
それはギルガメッシュが宝物庫を開いている明かりであった。
「まあ飲め」
「…またお酒?」
「殆ど只の甘味だ。多少ブランデーを垂らしてはあるが、子供だましのようなものだ」
暖まりたかったのだろう?とマグを差し出され、頬が緩む。
めちゃくちゃなくせに、妙に優しいところがあって余計に愛に溺れてしまう。
湯気をたてるマグを受け取ったその時、肩をぐいと引き寄せられ、必然的に身体が密着する。
どうしよう。鼓動がどんどん速く速くなってしまう。
この距離…ゼロ距離だが…ではモロバレである。
「緊張しているようだが、我の傍に居るのだ。無理もない。その辺の雑種であれば即死であろう」
ぎゅう、と更に身体が密着する。
「しかし我のせいで風邪を引かれても後味が悪い。身体を寄せれば暖まるのではないか?」
「…そうだね」
緊張と、少しのお酒と、ギルガメッシュの体温で徐々に身体に熱が灯る。
…若干過剰な気がしてこないでもないが。
「今日は特別に瑠衣が眠りにつくまで付き合ってやるとしよう、誰しも眠れぬ夜はあるのだ。瑠衣も、…我もまた例外ではない。貴様は我に身を委ねているだけで良い」
鋭い筈の瞳は優しく細められ、私に安堵をもたらす。
どうしてこんなに優しいのか、こんなに愛してくれるのか。
よくわからないけど、私は幸せ者だ。
「…ありがと」
「は、苦しゅうないぞ」
「所々ふるくさいなあもう」
「何?我を愚弄するか?…いや待て、我は最古の王であるからして」
ぶつぶつと呟くギルガメッシュがおかしくて、ブランデー入りのココアの甘さで思わず笑顔になって、月が綺麗で。
たまには眠れない夜も悪くないかな、なんて、そんなことを考えてしまう夜だった。
9/25
夜も冷えてきましたね
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