「さて問題です。今日のブリーフィングの内容はなんだったでしょうか」
「また君は…何のつもりだ?」
いつものように、いつものような、唐突な私の発言に眉をひそめるアーチャー。
そうなのです。
人生はいつでも唐突なのです。
「いいから答える」
「はぁ…確か。校舎裏にプールが開設されたのだったか?」
「正解」
今朝のブリーフィングは至って平和なものだった。
戦いだとか敵だとか事故だとか事件だとかそんなものは無縁な、平和なブリーフィング。
レオは朝の紅茶を飲みながらとても良い笑顔で言い放ったのだ。
『なんやかんやあって校舎裏にプールが設置されて開放しましたので皆さん存分に楽しんじゃってくださいねプール周りは気温も夏のものに設定されているので全力で夏を感じてください!』
と、ここまで一息。
要するに夏のプールを楽しんでこいと。
まあなんて平和なお話でしょうか。
「そういうわけだからアーチャー。夏だ、水着だ、プールだ!!!!行こう!!!!」
私だってたまには息抜きをしたいし、あわよくばアーチャーで遊びたい。
レオの笑顔にはなにか裏がありそうなものではあるが、遊べるのなら遊んでしまおうではないか。
据え膳食わずしてなんとやらだ。
「…マスター、それは少し違うのではないだろうか」
「細かいことは気にしない気にしない、さあアーチャーお着替えの時間だ、脱げ、今脱げさあ脱げそら脱げ」
言葉で捲し立て、じりじりとアーチャーににじりよる。
目に見えて焦るアーチャーが愉快でたまらない。
いつものお小言のお返しでございます。
「マスター!!落ち着いてくれ、眼が年頃の女性のそれでは、」
「年頃だからじゃー!!!」
「ま、マス、やめ…うわぁあああ!!!」
がばっといっきに脱がしに掛かる。
どうせいつも上半身裸のような物なのだ、むしろ着ている方がアレなのではないかと常々思ってたり思っていなかったり、とにかく服を剥ぎ取る。
まあ…残るは下着と首輪だけ…というところでアーチャーが半ベソをかき出すものだから、流石に中断したのだが。
そもそも着替えなんてPDAのコマンドをぽちっとなで終わるものだったりする。
しかしそれではあまりに情緒に欠けるので普通に着替えをするのだ。
アーチャーの羞恥は気にしない。
さて。
なんやかんやあってプールに到着する。
隣には眩しい褐色肌と筋肉そして黒ビキニ。
この上なく眩しい。
「マスター、ひとつ聞きたいのだが」
「ん?」
「何故君は制服のままなんだ?」
「別にアーチャーひとりビキニで彷徨かせたい訳じゃない、そんなことはない、それにほら」
制服の裾をまくりあげ(この時アーチャーが物凄く焦った顔をしていたのが非常に面白かった)、一瞬にしてすべてを脱ぎ去る。
「下に水着を着ていたのさ…!」
「全く…これだから君というものは…」
安堵か落胆か、深い溜め息をつかれる。
全く、これだからアーチャーは面白い。
「さて…水遊びするとしましょうか…んで、アーチャー」
「今度はなんだ」
大切な事を忘れていた。
二人きりでプールだというのに、大切な事を。
「ねえ、名前で呼んでよアーチャー」
「了解した、マス…いや、瑠衣」
「ん、よろしい」
やっぱりこれでなくては。
確かに普段はマスターとサーヴァントという主従関係にある。
しかし今はただの男女二人、しかも恋仲。
ちょっとだけ恥ずかしくて、嬉しくて、笑みが溢れる。
くるりと振り返り、校舎を眺める。
遠くに桜の花びらが舞っていて、それなのに気温はしっかり夏日。
何故か夕日は消え去り、青い空と白い雲。
矛盾と違和感の中の求めていた平和。
ああ、尊いってこういうものかな、なんて柄にも無い事を考えてしまう。
眩しいな、太陽。
「瑠衣、」
「ん?なぁ…に、い゛っっ???!!!」
トントン、と背中を叩かれて振り返ったそこには。
「め、めめめえ、めが」
眼鏡アーチャーが降臨していた。
ちょっと待て。
「なな、なん、ななな」
「なに、ちょっとした仕返…いや。サービスだ」
今仕返しって言いかけませんでしたか?!
いやとてもありがたいし眼福なんですけどもしかし。
がしがしと頭を髪をかき、白い髪が、おりて、
極上の笑顔で、このうえなく優しい声で、
「瑠衣」
名前を呼ばれたら私はもう。
「ありがとうございました…」
ありがとう生徒会長、ありがとうアーチャー、アンドフォーユー。
眩しすぎるアーチャーの姿に激しい目眩と高揚感に見舞われて、…その後のことはよく覚えていない。
多分きっと、ものすごく楽しんでいたはずだ、きっとそうだ。
嗚呼。こんな調子で、この先生きのこれるのだろうか…?
8/19
水着に前髪に眼鏡だなんて絶対色々大変なことになる。
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