私は気づいてしまったのだ。
アーチャーは未来からやってきた英霊だという事実から導き出される疑問に。
つまるところ、今現在の私達の知らない技術、文化を知っているのではないのかと。
未来を識ることは推奨できないとはよく言う。
しかし気がついてしまったからには夜も眠れない。
善は急げ。
そんなわけで 私 in 衛宮邸居間、now。
「また唐突だな君は!」
「気になっちゃったものは仕方ないと思うな私は!!」
「それは君の都合だろう!」
いつものようにお小言を頂く。
お小言を溢しながらもせっせとお茶の準備をしているのだからこの弓兵は侮れない。
本日のお茶うけは紫色のパッケージが印象的な、ココアクリームでコーティングされたクレープクッキーのようだ。
…美味しいけど散らかる、鞄の中で粉になるアレだ。
衛宮邸はこのメーカーのお菓子がよく置いてある…気がする。
─数分経過。
ちゃぶ台に並んで座る。
「なぜ並ぶ」
「アーチャーの隣がいい」
この男には直球で意見をぶつけるのが一番良い。
その証拠にほら、耳が少し赤い。
しかし実際会話するのであればそりゃあ向かいに座った方が都合がいいだろう。
でも私はアーチャーの横に居たかった。
私のサーヴァントではない彼の、せめて隣だけでも。
「で、ほらほら。未来…そうだなあ、何か面白い進展あった?」
「レジスタンスとして活動してからの事は少々疎くなるが…わかりやすい変化と言えば現行のPCを上回るであろう性能を持ったタッチパネル式の携帯電話が出たな」
「はっはっはそんなご冗談を」
「そして二つ折りの携帯がマイナーとなり…ああそうだ、君がこちらの業界に明るいかはわからないが、16GBのUSBメモリが1,000円で買えるようになる」
唖然。
アーチャーの言う通り、そちらには明るくないのだが…とんでもない価格崩壊が発生しているようだ。
IT業界の成長スピードはネズミレベルとはよく言ったものだ。
恐怖すら覚える。
「…まあ、明かしても問題ない未来といえばこの辺りだろうな」
何?そんな成長して人間はどこへ行くの?所謂近未来なSFが実現しちゃうの?
アンドロイド的な?家事も勉強も移動も何もかもオートな感じですか?
「…瑠衣?」
例の青狸も実現しちゃいますか?マジっすか?
あと東京オリンピックとか?それなんてAKI…
「瑠衣ッ!!」
「はっ」
「大丈夫か?完全に意識がここではないどこかへ飛んでいたようだが…」
「だ、大丈夫です…」
想像が膨らみすぎて宇宙が見えていた気がする。
何か、こう、膨大な何かが。
私には予想もつかない、未知の領域的な。
"かがくのちからってすげー"ってやつだ、多分。
しかし。
正気に戻って思い出してしまう。
人類がそんな進化を遂げていても、戦いは絶えず彼のその先は。
正義の味方を目指し、ただ、人を救いたかった。
それなのに、得たものは何も在りはせず。
「…アーチャー」
隣の彼を強く抱きしめる。
こんなにも大きくて強いのにどこか悲しげで。
「独りにしないから、私が、いるから」
「瑠衣…?」
本人は生前のそれを否定しなかった。
それでも、それならばせめて、例えそれが私のエゴだとしても。
ふ、と笑みの音が聞こえた。
「心配するな、俺は今幸せだ。だから泣くな瑠衣。月並の言葉だが…今の俺には、瑠衣が泣いている事の方が余程辛い」
ぎゅう、と抱き締め返される。
それならいっか。
今のままでも。
「…って、私泣いてたのか…」
「ああ、私のシャツが濡れた」
その返しは如何なものか。
まあ、それが彼なのだろう。
私もそんな彼が好きなのだ。
「ここにいる俺の未来はまだ決まっていない、ついてきてくれるか?」
「…もちろん。どこまでも」
どうか、今生の彼に幸あらんことを。
…ついでに、未来の経済にも幸を願おうか。
経済が悪化したらアーチャーの小言が増えるに違いない。
声は小さく、平和を願う。
当たり前の幸せを享受できますように、と。
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話中時代は2004年を想定。
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