にゃあ。
ちりん。
にゃあにゃあ。
ちりんちりん。
にゃあお。
ちりん。
「〜〜ッ!ええいやかましいぞ猫!」
「はいはいギルも大人しくしてねー」
「なっ…この我を猫畜…」
「はいノアちゃんご飯だよー」
にゃぁぅ
騒ぐギルを横目に足に擦り寄る黒猫にご飯を与える。
ノアというのはこの黒猫の名前である。
友人が一日だけ預かってほしいというので引き受けた。
私の部屋から出さないことを条件に、家主もとい言峰に許可は取ってある。
はぐはぐとご飯を食べる姿がとても愛らしい。
背中を撫でてみればとても毛づやがよく、とても愛されている事が伝わってきた。
「おい」
ギルは預かり猫に夢中な私が気に食わないらしく苛立ちを隠せていない。
先刻からずっとこの調子である。
「なに?」
「ソレに構いすぎだ瑠衣。飯時なのだ、放っておいても問題なかろうに」
「いや、まあそうだけどさ」
間違った事は言っていない。
しかしギルの発言は猫を気にかけての事ではなく、自分より構われる猫が気に食わないからなのだ。
「可愛いよ?」
「確かに艶のある漆黒の毛並み、金の瞳、しなやかな身のこなしは我が寵愛に値する。しかし、我よりも優遇されるのは赦されざる事だ」
猫のことは悪く思ってはいないらしい。
しかしやっぱりというかなんというか。
ここはあえて直球で聞いてみる。
「嫉妬?」
「ふ、我とて畜生に嫉妬するほど堕ちてはいない。貴様は我に尽くすのが常なのだ。それを崩されては」
「あーはいはい」
本人は気付いていないようだが嫉妬しているということでよさそうだ。
我が儘で気紛れで自分が一番偉い、なんだか猫みたいな男である。
ちりん。
猫の食事が終わったようだ。
鈴の音を響かせて前足でぐしぐしと一生懸命顔を洗う姿もまた愛らしく、頬が緩む。
「おなかいっぱい?おいしかった?」
にゃあ。
ちりん。
「そっかそっか」
「瑠衣」
「なに?」
スルーし続けるのも悪いので少し向き直って返事をする。
顔と声色からして、もう苛立ちを隠す気も無いようだ。
「我も腹が減った。軽食を献上せよ。軽食で構わないから瑠衣が作れ。よいな?」
仁王立ちで空腹宣言、そしていつもの上から目線。
先住猫さんにこれ以上機嫌を損なわせるのもあまり良くない。
「りょーかい。…サンドイッチでいい?」
「構わん。」
ギルの了承を得たことだし、サクッとサンドイッチを作ってきますか。
部屋を出る間際、振り返ってみれば金色の大きな我が儘猫さんは大人しい黒猫の頭を撫でている姿が確認できた。
なんだ、なんやかんや気になるんだな、猫。
もしかしたらいい組み合わせなのかななんてことを考えながらキッチンへ向かうことにした。
ちりんちりん。
一日限りの鈴の音は、金色に輝いていた。
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ギルさんと猫
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