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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「もしもし?私メリーさん。今あn…」

ガチャン、ツーツーツー。

鼓膜に響く途絶の機械音。
電話が切れた。
否、電話を切られたのだ。
全てを語る前に。

「……」

二つ折り式の携帯電話を無言で握りしめ、呆然と立ち尽くす。
イタ電、失敗しました。


「わぁんランサー言峰つよい」

「なんだどうしたんだ急に」

ソファでくつろぐランサーに泣きつく。

「言峰で遊べない…遊ばれる…勝てない…負けてる…」

「あー…」

言峰とそれなりに親しくなってからだっただろうか。
私は毎日のように言い負かされ、裏をかかれ、手のひらの上で踊らされ続けていた。
いい加減このままでは悔しい訳で、何か悪戯を仕掛けてみようと思い立ったのである。
そして今日。私メリーさんごっこは見事に失敗した。

「言峰が驚く顔見たいよーランサー何かないー?」

ランサーはチラリと瞳を動かし、少し唸った後に答える。

「ねえな」

「さいですか…」

シンプルに否定。
まあ、元々大して期待はしていなかったのだが。
なんせ、ランサーも踊らされる側の人間であるからだ。
一言ありがとう、とランサーに声を掛け、私は自室へと戻ることにした。


自室のベッドに座り、思案を巡らせる。
過去に試した悪戯は少なくない。
椅子ずらし、振り向き様に頬に指を突き刺すアレ、膝かっくん、私物隠し、そして先程失敗したメリーさん等々。
実に子供じみた行為ではあるが、かえってその方が効果がありそうだと思っての判断だった。
…結果は無惨なものだったけど。

「神崎」

「ほぎゃっ?!」

後方から響いた低い声。
先程の電話相手(失敗)、言峰綺礼がそこに居た。
…ん?私今どこに居た?
ベッドに座ってた?何故後ろから言峰?
あれ?

「ほ?」

間抜けた声を漏らせば鼻で笑われた。

「無防備に思案に耽る神崎の後ろに回り込むなど、私にはさして難しいことではない」

はぁなるほど。

「でもここベッドですが。後ろ壁なんですが」

「大した問題ではないな」

この男、伊達に代行者をやっていない。
気配を消して後ろに回り込むのが簡単だと言われても納得せざるを得ない。
例えそれが若干の不条理であってもだ。

「私は言峰綺礼。今神崎の後ろにいる。…さて、どうするかね?」

あっ、それ私が言えなかった、最後まで言わせてもらえなかった台詞…
完全に馬鹿にされている。

「どうすると言われましてもね…」

背後をとられてしまったならどうしようもない。
まあ、前を塞がれたら更にどうしようもない事になるのだが。
さて。どうしたものか。
一先ず、無防備な背中を晒し続けるのも嫌なので向き合うことにした。

「…言峰」

「なんだ」

「…なんでもない」

「そうか」

一瞬の気の迷いで悪戯の理由を明かそうとしたが、そんなことをすれば更に馬鹿にされて終わりだ。
会話も無しに仏頂面二人が向き合っているこの環境が、沈黙による痛みを倍増させていた。

ここは一旦逃げて仕切り直すか。
それともこのまま耐えるのか。
もしくはこの場で再戦を挑むか。

選択肢は三つ。
最善はどの道だ…?!
良くてNORMAL END、悪ければDEAD END…!!
HAPPY ENDなどは始めから存在していない。
あったらあったでそれも(言峰の笑顔同様)不気味なものだが。

そんなこんな思案しているうちにとある事に気がつく。
この部屋、暑い。
せめて窓ぐらい開けておくべきだった。
あつい。

「暑そうだな」

「……」

まあわかりますよね。
私の額に汗が浮かんでいますものね。
言峰といえば服装は相変わらず暑苦しいというのに汗ひとつ見当たらない。
体裁はかなぐり捨て、いい加減涼しい場所に逃げるかとベッドから降りたその時だった。

「……痛っ」

腕をがっつり掴まれベッドへ崩れ落ちる。
そして、言峰はいきなり上衣を脱ぎ始めた。

「え、ちょっと待って言峰待って待ってどういうことちょっと」

「案ずるな」

「案じるわ!!」

ぎゃーっとじたばた暴れていたら上衣を被せられる。
…上衣から、言峰のにおいがした。
暑さで速まった鼓動がより速くなる。
そのまま押し倒され、視界が陰る。
あ、これまた丸められて終わりだ…そう私は覚悟した。


「少し悪戯が過ぎたな神崎」

そう言いながら言峰は私の背中に手を伸ばし…


上衣の袖で私の自由を奪い、さらに布団を掛け、いつの間に出したのか毛布まで掛けやがったのだ。
丸められた。物理的に。あと暑い。

「言峰!!ちょっと!!暑い!!凄く暑い暑苦しい!!」

「そこで頭を冷やしていろ」

そんな無茶な。
むしろ頭が沸騰する暑さだ。
冷える前に溶けてしまう。

「なに、死にはしない」

「死ぬよ!人間熱中症で死ぬよ!!」

あなた方と違って私はただの人間です。
魔力はあれどただの人間です。
あなた方と一緒くたにされても困るのです。
あーだこーだ叫んでみましたが、結局助けるそぶりも見せず言峰は部屋を後にしやがりました。


ああ、あついな、ことみねのにおいがするな、しこうがとけてくな…
なんだかわたしつかれたよ…

ああ……




数分後、意識を手放しかけていたところを青いわんちゃんが助けてくれました。




5/2
言峰WIN。


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