※流血、吸血表現※
※痛いのが嫌な方はリターン※
スプリングが軋む音がした。
二人分の重みでベッドが大きく沈む。
さらりと頬を擽る青い髪は尾のようにも見えた。
両腕はランサーの大きな手に固定され、必然的に彼の顔を見つめる体勢になる。
特筆することはない、いつもの光景。
の、ように見えるかもしれないのだが。
今日はどうにもランサーの様子がおかしい。
いつもより眼光が鋭いような、息が荒いような。
「ラン、サー…?」
恐る恐る声を掛けてみる。
相変わらず表情は険しく、捕らえられた両腕へ掛かる力が一層強くなっただけであった。
「ランサー、どうしたの?大丈夫?…魔力足りない…?」
めげずにもう一度。
すると、掠れた声で彼は答えた。
「わりぃ、瑠衣、今日は…ちょっと…駄目、だ…」
一体何が駄目だと云うのだろうか。
余程餓えているということなのか…?
「んん、どうしてもっていうなら…んん、そのー…好きにしても…」
「違、う…そうじゃ、無えんだ…」
あまりにもランサーが辛そうだからと勇気を振り絞って提案したというのに、返事はNO。
少し乙女心に傷がついたようなつかないような。
…いや、今気にすべき所は別にある。
もう一度、どうしたのか問うてみようと口を開いた瞬間の事だった。
「んっ、んぅっ?!」
噛みつくようなキス。
否、噛みつかれている。
「はぁっ、ふ、…ッ」
明らかに平静を失った、獣のような呼吸と欲に充ちた瞳。
必死にこちらの唾液を奪い、舌を絡めとり、噛みつき、私の身体が跳ねる。
痛みやら快感やらがぐちゃぐちゃになって、だらしなく開いた口から唾液が溢れ落ちるもそんなことは一切気に留める様子はない。
「らん、…んっぅ、さ、」
「瑠衣…ッ、ふ、ン」
再び、深く深く口付けられる。
咥内を蹂躙され、舌を食まれ、全てが奪われてゆく。
まともな呼吸が出来ず、意識が白み始めた頃にやっと解放された。
「は、はぁっ、あ…瑠衣、すまねえ…ちっと、我慢効かねえ…辛いんだ……、あ、腕、わりぃ」
「は、ぁう、…私は、大丈夫、だけど…っ、ふぅ……」
そんなに、何が辛いというのか。
獣のような瞳の奥に少しの哀が映っている、ような。
「…ランサーは、どうしたい…?私に出来ることなら、してあげるから…そんな顔しないで…」
解放された腕で大きな身体を抱きしめれば、布越しに感じた熱がいつにも増して熱かった。
「じゃあ、」
「ひゃっ」
首筋に生暖かく濡れた感触。
「…噛ませてくれ……そんで、…」
それは普段のランサーからは微塵も想像出来ないであろう切羽詰まった、心の底から懇願するような声だった。
ここで補足するが、魔力供給では体液交換…性行為によってそれが行われる事は多い。
しかし性行為を伴わずに供給する方法が他にもある。
それが、血液による魔力の摂取だ。
もちろん血液を与えるということは流血を免れることは出来ない。
痛みが、伴う。
「身体が、疼くんだ…っ、瑠衣に痛い思いはさせたくねえ、それでも…っ」
どうしても、抗えないんだ。
苦しそうに、苦しそうに、そう、告げられた。
流石にここまで苦しそうに告げられてしまっては心が痛む。
この胸の苦しみに比べたら流血の痛みなど些細なものではないだろうか。
ランサーの、為ならば。
「いいよ、ランサー。好きにして…?」
「…ッ!!!クッソ…こんなときに、煽られ…っ」
熱い吐息が肩首にかかり、これから起こることを思い浮かべた身体が強張る。
そして。
「…ッづぁっ…!!!」
肩首に食い込む自己主張の激しい犬歯が肌を破った。
「あ、…あっ…痛!!、…んっ!」
ぢる、じゅる、と血を啜る音が頭を犯す。
丹念に傷口を舐めとったかと思えば、唇を圧し宛て強く吸われる。
肌を食い破られた鋭い痛みと、急所を吸われた事による鈍い快感が混ざりあう。
痛いのに、気持ちいい。
じわじわと興奮が昂り、呼吸が乱れているのは私だけではない。
ランサーも先程より興奮しているようだ。
その事実が堪らなく嬉しい。
「はぁっ…は、瑠衣、っ…」
「らん、…ん゛ぅ…っ、ぁ…っふ」
一呼吸置き、再び肩首に吸い付かれる。
ずるずる、じゅるじゅると力が流れ出ていく。
性行為とは異なる痛みと快感に、意識が融けそうだ。
「瑠衣、こっち」
「ん…」
締めとばかりに顔を引き寄せられ、唇を重ねる。
深く。深く。混沌へと堕ちていく。
その混沌は、濃厚な鉄の味がした。
4/15
獣なランサーに食べられる。
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