扉の先には、見慣れない見慣れた人が居ました。
「なんだ、その顔は」
「いえ、あのー。それはこっちの台詞なんですが…え?あの、…アンデルセン……??」
猫背の背中から、身体をこちらに向けずに首だけをこちらに向けるその人物。
空の如く青い髪と瞳。
ぴょんぴょんと跳ねた癖っ毛。
長いまつ毛にアンニュイな眼差し。
細めのフレームにチェーンを付けた眼鏡。
そして、猫背ながらも高い身長。
斜に構えるような視線と意地の悪い眉。
身長以外は概ね見知ったアンデルセンとそう変わらない青年が、アンデルセンの部屋に居座っていたのだ。
(いや、どう見ても…アンデルセン……、それとも親族?それにしては似過ぎている……)
「僕の事は適当に童話作家や先生とでも呼んでくれ。あと、コーヒーを頼む。カフェインが切れそうだ。それと、僕に何の用が?原稿の取り立てならお断りだが」
あ。これアンデルセンだ。一人称こそ違えど、雰囲気がアンデルセンそのものだ。
言葉にすることは流石に憚られるが、この減らず口ぶりはどう考えてもアンデルセンのものだ。
本人はその事については言及しなさそうだが……。
「げ、原稿…してる……んです、か?」
「そうだが。どこからどう見てもそうだろう、机に向かって筆を握って、それ以外に何があるという?」
「あ、はい、すみません…原稿お疲れ様です」
「ああ、本当に疲れるよ。だからコーヒーを頼む。タンブラーにたっぷり淹れてきてくれないかな」
言葉こそ尖っているが、どこか少しだけ丸く感じるのは気のせいだろうか。
普段のアンデルセンよりも、少しだけ。少しだけ丸くなったような……
それに、一人称も僕になっている。
だけど。
そんな事は最早どうでも良かった。
猫背がちな背中。
振り返って視線が絡まった。
皮肉な視線と意地の悪い表情に、私は射抜かれた。
青く冷たい視線に射抜かれた私の心はどこまでも早鐘を打って止まらない。
とどまることを識らない。
目があった瞬間に、何かが崩れ落ちた。
アンデルセンの事は、もちろん好きだ。
だけど、これは違う。
もっとステージの違う何かだ。
そう、まるで…心臓を穿たれたかのような衝撃。
「なんだ。コーヒーはまだなのか?それなら帰ってくれないか。執筆の邪魔だ」
「あっ…、はい!今用意します!!」
急いで(元)アンデルセンのルームから退出する。
コーヒーも用意せねばならないが、それよりも……早鐘を打って止まらないこの心臓をどうにかしたかった。
「……はぁ……私、こんなに惚れっぽかったっけ?…違うよね……今の、何だったんだろう……ドキドキが、止まらない」
カルデアの廊下で、ぽつりと呟いた。
次に会った時、どんな顔をすればいいのだろうか。
そもそも、次もまた、会えるのだろうか。
何も、わからない。
誰も、わからない。
アンデルセンであるかどうかすら確定していないのに、こんなに心を動かされてしまって。
私は、どうしたら良いのだろう……??
しばらく、廊下で頭を冷やすハメになってしまった。
コーヒー、淹れなきゃな……。
08/24
大人デルセンとの邂逅
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