「ほらよ、受け取れ瑠衣」
無造作に差し出されたブラウンの箱。
見慣れない文字が、シルバーの箔押しによってキラキラと煌めく。
一言で言えば、"高そうな箱"。
「え?これ……え、こんな高そうなの」
「値段は関係ないだろ?あと瑠衣もしかして忘れてんのか?今日」
「今日……?」
なんだっけ。今日ってなんだっけ。
携帯を取り出し、日付と時刻を確認する。
"03/14 19:04"
うん。
「……あっ、」
「思い出したか?ホワイトデーだよホワイトデー。瑠衣には世話んなってるし、何よりチョコくれるだろ?そのお返しだ」
トン、と軽く胸元に小箱が押し付けられる。
「焼き菓子の詰め合わせだ。瑠衣の作るクッキーに及ぶかはわからないが……まあ、評判のいい店らしいから大丈夫だろ」
「あ、ありがとう……!大事に食べるよ、ランサー」
おうよ、とやや尖った犬歯を見せて満面の笑みを浮かべたその男は、この町で起きた戦争なんて関係のないほど、普通の男だったのだ。
普通の、私にとって特別な男の人。
「1日1枚ずつ大事に食べる……」
「いや、それは流石に湿気るだろ。美味いうちに食っとけ」
「あ、それもそっか」
あはは、と軽く笑い合う。
静寂と喧騒に満ちたこの教会でも、たまには平和で幸せな時間が流れる。
それが今。
ランサーの事があまりにも愛しくて、箱を片手にしたまま勢いで抱き着いた。
「へへ……ランサー、ありがと、好きだよ」
「ああ、俺もだ瑠衣」
ランサーはわしわし、と私を抱きしめながら頭を撫でる。
その行為が気持ちよくて、またさらなる幸福に浸るのであった。
03/16
遅くなったけどホワイトデー
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