「瑠衣」
「瑠衣さん」
「……はえ?」
なんて、間抜けな声を出してしまうなど。
突然のバイノーラルボイスに戸惑った私である。
……バイノーラル?サラウンド?いやそれはいい、どうでもいい。
聴覚ではなく、視覚的観点から現状把握を行うのであれば、この一言で説明がつく。
──二種類のギルガメッシュが、同時に目の前に居る。
殺し合いも喧嘩もせずに……!!
「何を戸惑う必要がある?瑠衣にとっての我は我だけであろう?ならば我だけを見るがよい」
「いやー?それは流石に傲慢ってやつだと思いますよ?時には一歩引くのも大切なテクニックです。大人のぼくにはわからないみたいですけど」
「……あはは」
……前言撤回。
表面上喧嘩には至ってないが、そこはかとない敵対心、対抗心、独占欲、そんなものが二人の間で渦巻いている。
そして、その独占欲の向く先は、私である。
間違いなく、泥沼だ。
「さ、ぼくと一緒にゆっくりしましょう?」
「否、我と過ごすのが妥当であろう?」
両側から、両腕を。がっつりと。しっかりと。
小さい方のギル……ギル君に至ってはそんな小さな体のどこにそんな力があるというのか、いや英霊だから有り得るけど!!
そんな具合に拘束されてしまい、そのままソファにもつれこんだ。
「……流石に三人は狭いかなーって……いかがでしょうかお二人とも……」
「ぼくは瑠衣さんと密着できるから悪くはないですけど……瑠衣さんが窮屈だというのならあまりよくないですよね、ほら退いてくださいよ大人のぼく。言っても聞かないとは思いますが」
「よくわかっているではないか。当たり前だ。我が何かを譲るなどこの我が赦さん。例えそれが我そのものであったとしてもな!故に、そら、去るがいい。ここは我の席だ」
はい、駄目です。聞く耳を持ちませんこの二人。
両サイドでああ言えばこう言うを幾度と繰り返され、押され押し返され。
そろそろ私も疲れてきた。
普段は温厚なギル君もやけに刺刺しいし、ギルに至ってはいつもの何倍も我が強い。
両者、一向に譲る気ナシ。
ならば、と。
「……あ、私用事あるの思い出したなー、ちょっと出掛けてく、」
「「それを認めるとでも??」」
先程の綱引きよりも更に強い力で、立ち上がろうとした私を二人がかりでソファに押し留めようとしてきた。
……ああ、これ。どうしようもないのかなあ。
この贅沢ながらも騒がしく迷惑なシチュエーションは、私に目眩をもたらすにはあまりにも充分過ぎる。
金髪紅眼の美少年と美青年を侍らすだなんて、世の中でそうそう無いシチュエーションだろう。
しかし、状況が状況すぎて堪能する間なんてものはここになかった。
「ねえ」
「なあ」
「んー……」
「ぼくと、」
「我」
あ、嫌な予感がする。
「どちらを選びますか?」
「どちらを選ぶのだ?」
いずれ来ると思っていた最悪の質問を投げかけられ、ストレス値がキャパオーバーした私の頭は容易にショートした。
すみません、どっちも選べません。
05/24
如月 空乃様リクエスト、ギルガメッシュで大きいのと小さいのに構われているヒロイン。
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