緑の茂る部屋で生活を始めてから早3日。
いや、4日目?
最早時間の感覚すら危うい頃。
案外人間は順応性が高い生き物であって、ここで過ごす時間もそう辛いものではなくなってきている。
軟禁状態であるが為、そう全て気を抜く事は叶わないが軟禁初日に比べたらだいぶマシになったと言えるだろう。
日がな一日芝の上でごろごろしたり、たまに差し入れられる食事を嗜んだり、休暇と云うか、何と云うか。
割と自堕落とも言える日々を過ごしていた。
軟禁状態である事を除けば、本当に平和な日々だ。
しばらく彼…私のサーヴァントであるアーチャー(緑ではない)に会っていないが、彼は今何をしているのだろうか。
私を探していたりするのだろうか。
彼は元気だろうか。
…今の私に知る術はないし、知ろうとすれば間違いなく妨害が入るのだろうけれど。
そっと手の甲の令呪をなぞり、ぽつりと名前のない彼の名を呼んだ。
「瑠衣ちゃん、ナニしてんの?そんな愛しそうに手の甲撫ぜちゃって」
音もなく木陰から現れた緑衣の狩人。
「ッ、ロビン…」
「まさかまだアイツのこと考えてるワケ?」
ロビンはあからさまに不機嫌そうな声色で私に問いかけてくる。
「そ、それは…当たり前でしょう、私のサーヴァン、ト、」
ダン、
と。
気がつけば私の世界は反転し、目の前に広がるのは険しい瞳をしたロビンそのものだけになっていた。
一拍置いて、先程の音は自身が押し倒された時に発された音であることに気がつく。
「なあ。まだなのか?いつになったらアイツの事を忘れられる?いつになったらオレだけを見るようになる??」
「いっ…た…!!」
ぎり、と、令呪が刻まれた右手を強く掴まれる。
「痛い?痛いよなあ、だってそうしてるんだから。痛みを刻み込んだら痛みでアタマいっぱいになりますかねぇ?」
私を射止めるその瞳に、光は見えない。
ゾッとするような鋭さだけが、冷たくそこにある。
「それとも腕ごと切り落としてしまおうか。マスター権も無くなるだろうし、アンタはオレを頼らざるを得なくなる。…片手だけでもいいが、アンタ、かなりしぶとそうだから両手、とか、さ」
「痛い……!!痛いってばぁ…!!」
ぎりぎりぎり。
手首から先が握り潰されそうな程の痛み。
「ホントはこんな事したくないんだぜ?前も言ったが、アンタがもっと素直にオレだけを求めるようになってくれたらソレでいいんだ」
「なんで…っ、そんなに、…私、が……痛ぁっ」
「なんで?そりゃあアンタが欲しいからだろ、瑠衣ちゃん?わからない?」
「わから、な…い、…!!」
ああそうかい。
そう吐き捨てるように呟いたロビンは、私の呼吸源を奪った。
「───!!、!!」
「こんな事したくはないとは言ったけどさ?オレ、目的のためなら手段選ばないタイプだから」
酸素を求める頭が悲鳴をあげる。
見えない悲鳴が、頭を割るかのように喚く。
焦点はどんどんとぶれてゆき、目の前のオレンジと緑が混ざって見えてくる。
どこか遠くから、声がする。
……諦めてしまえば、楽になれるのに。
その通りだ。
その通り、だけど。
そうもいかなくて。
だけど。
これ以上は、もう。
フッと何かが落ちて、何も、考えられなくなった。
10/10
強硬手段。
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