※真名バレ※
目の前に、白髪で眼鏡でおヒゲなオジサマがいる。
カルデア内一部でちょっぴり流行している自費出版新聞を興味深そうに眺めている。
冗談まみれでフザけた発言も多い中、時折知性に溢れる素振りも見せる、よくわからない人だ。
彼の名はジェームズ・モリアーティ。
しかし私はホームズの物語を読んでいなかったが為に、真名を聞いてもピンと来なかった。
マシュやだびんちちゃんから貰った情報以外、依然として彼は謎の人物のままであったりする。
今度、シャーロック・ホームズの物語を読んでみよう。そうしよう。少しは彼の事を知る事ができるかもしれない。
そしてホームズ自身のことも。
……実のところ、ホームズもかなり不審人物ではあるのだがそれに関しては触れないでおこう。
ややこしい話が始まってしまうからね、友よ。初歩的な話はもういいんだ。王の話ももういいや。
仮に今とても暇であっても、面倒な話はちょっとご遠慮願いたい。
どうせ聞くのなら楽しい話の方がいい。
少なくとも今はそんな気分だ。
「ねえモリアーティ?」
暇なので話し掛けてみる。
「なんだね神埼君?」
「なんでもないよ」
「そうかね」
うん、要件は無いんだ。ごめん。
「ねえ教授」
もう一度、呼び方を変えて話し掛けてみる。
「なんだね?」
「やっぱりなんでもない」
「…ふむ?そうかね」
それでもやっぱり要件はない。
話し掛けているだけだ。
暇なのでそんな非生産的行動をしてしまったりもする。
「…………パパ?」
「なんだね神埼君!!!何かね?!パパなんでも聞いちゃうヨ!!!」
ガタン、と派手な音を立てて立ち上がるモリアーティ。
相変わらず露骨が過ぎる反応である。
「なんでも…ねえ、んー………なんでもないよ」
「そうなんでも!なんでも……、え?今なんて?」
「なんでもないよ」
「そうか…そうかね………ん?アレ?これもしかして私弄ばれてない??神埼君??」
「あはっ、バレた!やっと気づいた!悪巧みが得意なのにこんな簡単なイタズラにひっかかるなんて!!ふふっ」
目を丸くするモリアーティの姿がなんだか滑稽で面白くて、思わず笑い声をあげてしまう。
だってそんな間抜けな話ある?
「ン〜、まあ私も人間?だし?たまにはそういう事もあるんじゃないかな?それよりも神埼君、この私を欺いた罪は重いヨ?腰のように」
「腰のように」
「そう。とても重い罪」
犯罪者が何か言ってるけどこれはジョークとして受け取っていいのだろうか。
ジョークを放った所にジョークが返ってくる、それはなんらおかしい事では無い筈だ。
というわけで更にジョークで返すとする。
「私がモリアーティの事が好きって言っても?」
「そう、好きって言っ……て、も?エ?神埼君??私の事好きなの?」
「まあまあそれは……、」
冗談だよ。と、言うつもりだった。
言うつもりだったが。
「…それならば態度を改めなければならないね。」
そんな急にまともな態度を取られてしまっては何も言えなくなってしまうというのに。
唯でさえ顔がいいのに。
「まさか此れも冗談だとでも言うつもりかね?それはいけないよ神埼君。冗談では済まされない重罪、大犯罪だ」
「えっ…と、その」
「おっと逃げる気かね?それはこの私が許さないよ」
いつものフザけた口調はどこへやら。
威圧され思わず後退った私の腕を掴み、真顔で迫る歳上の人。
「あ、あ……」
まともに言葉が出てこない。
完全に混乱している。
まさか真に受けられるだなんて一ミリも思っていなかった。
どうしよう。これは脚やら着地点やら何やら色んな物がつかない…!!
「なーーーんてネ!!」
「え?」
突然底が抜けるような、明るい声、そして解放された私の腕。
ちょっと待ってよくわからない。
「君が冗談を言うのならこちらも冗談で返すのがマナーだろう?そういう事サ」
でもね、
「ちょっぴり、残念だって思っちゃったナー…」
と。
彼は本心のようなものを私にぶつけてきたのだ。
「でも歳の差すぎるからね、是非もないネ!」
「それノッブの台詞でしょ! 」
「ハッハッハ」
彼がはぐらかしたのか、私がはぐらかしたのか。
それとも二人ともはぐらかしたのか。
この時の私には知る由もなかった。
8/17
夢冥様リクエスト、アーチャーにふざけて告白したら真に受けられてしまったという話。
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