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青い、蒼い、あおい海。
ひたすらに落ちてゆく。
甘く、甘く。
どこまでも堕ちてゆく。

ふかくあまいあおにとかされる。

何もかもが融かされながら見えた景色。
舞い散る桜、妖艶な身体の女性、見慣れた空色の少年。
見覚えもないのに確信する。
あの人は、彼女は、かつてのアンデルセンのマスターなのだと。
そして、これは夢なのだと、ぼやける意識の底で理解した。
意味もなく、腕をのばそうとして。

ひらひら。ふわふわ。

全身の力が抜けきり、意識も全て融けきった。


*

「おい」

誰かの声がする。
目を開き、飛び込んできたのは真っ白な天井。

「……アンデル、セン…?」

そして、何かを捉えようとした腕を掴むアンデルセンが見えた。

「寝ていたと思ったら急に腕を上げて、夢遊病にでも掛かったのかと思ったぞ神埼。驚いて原稿も進みやしない」

「…そうじゃなくても原稿は進まないでしょ、ってあいたっ」

のそりと起き上がりつつツッコミを入れようとしたら逆に物理的なツッコミが帰ってきた。

「フン、無駄口を叩く元気があるのなら心配は要らないな。………なんだ、その顔は」

「……え?」

「眉間の皺」

慌てて眉間に指を宛てる。
指先に、アンデルセンとよく似た溝が出来上がっている。
言われて気がついたが、どうやら私は苦い顔をしていたらしい。
それも、先程のツッコミによる痛みではなく、もっと心理的な何かの痛みで。

「…どうした。何かあったのか」

「………」

「話なら聞くが。何かのネタになるかもしれないからな」

アンデルセンの顔を見る。
台詞こそ皮肉に充ちているものの、その真意は純粋な思いやりだった。
貴重なアンデルセンの気遣いに、少し甘えさせてもらうことにした。

「…アンデルセン、夢で見たんだけど。……その、前のマスターって」

「前言撤回それ以上はやめるんだ神埼その話はしたくもないし思い出したくもない!」

息継ぎもせず、一息で捲し立てられた。
その剣幕に呆気を取られていると、アンデルセンは自分で否定したにもかかわらず喋り始める。

「ああ、あの忌々しい牛女なんて思い出したくもない、久々に執筆活動かと思えばあの長い話いや書いててつまらなかったかと言えばそうでも無し、だがしかし、ああ思い出したくもないとも!!この世の全ての、……」

チッ、と盛大な舌打ちをして、そこで口を噤むアンデルセン。
中々に、中々の激情だった。
確かにアンデルセンはよく舌打ちもするし、悪態をつくことも少なくないが、ここまで強い感情を出すことはないのではなかろうか。
その感情がどちらのベクトルに向いているのかはさておき、ここカルデアに召喚されてなおそこまで強く記憶に遺されているマスターが少しだけ羨ましかった。
喩え負の感情であってもだ。

「…おい、神埼。なぜ貴様が苦い顔をする?苦い顔をしたいのはこちらの方だぞ」

「……ごめん」

「………ハァ、こっちへ来い神埼」

ひょい、とベッドに座り込み、その隣に来るよう指示される。
私は指示されるがままに、その隣へと移動した。

「違う、もっと近くだ」

「っ!!」

一瞬、何が起こったのかわからなかったが、目の前の海色の瞳を見て事実に気付く。
突然、横から強く腕を引かれたものだからアンデルセンの胸に倒れ込んでしまったのだ。

「あまり落ち込まれても俺が困る。何より、元気のないお前を見ていてもやる気が削がれて原稿も進みやしない」

「それ二回目…むぐ」

「いいから黙っていろ」

私より少し小さな手のひらで口を塞がれる。

「それと夢の事は忘れておけ、お互いロクなことにならん。そもそもここに無いものを憂いてどうするんだ?そんなものはエネルギーの無駄遣いに過ぎない」

「む…」

確かにその通りだけど、と言葉を発しようとしたが、アンデルセンの手によってそれは阻害されてしまう。

「なんだ?不満そうだな神埼。そんなに俺を信用できないのか?」

違うけど、と。
言いたかったのだけど状況は変わっておらず、相変わらず発言は阻害されたままで。
今の私には、むー、と小さく唸るしか叶わなかった。

「はぁ………仕方ないな、…ん」

「?!…ぷはっ!」

私の唇を覆った手のひらはそのままに、手のひら越しにキスをし、アンデルセンは背を向けた。

「…これで満足だろう、俺がこういったことをするのは貴様にだけだ。余計な感情は棄てておけ。さあ俺は忙しいから原稿に戻るぞさらばだ神埼二度寝でも三度寝でもするがいい」

ぱすん。
一切こちらを振り返ることもなく、まさに立て板に水といった調子で捲し立てながら部屋を去った。
唖然とした私を残し、ドアが気の抜ける音が部屋に虚しく響く。

「…あ、………!!!」

一息ついて、何が起こったのか理解したその瞬間、一気に頬が赤くなる。

「そんな、こんなので二度寝なんかできるものかーーー!!!」

そう叫んで、私は思わず枕を壁に叩きつけた。


*


カルデア内、廊下。
俺は早足で自室へ向かう。

「…ああクソッ」

慣れない事をしてしまった自分に混乱が隠せない。
なにせ、生前も、英霊となった後も、こんなことをした事は一度も無かったのだ。
いくら手のひら越しとはいえ、だ。

「世話の焼けるマスターを持つと大変だなぁ!!!」

半ばヤケクソ気味に、自分の感情を誤魔化すように、俺はそう叫んでいた。



05/03
ヤケクソ童貞は忙しい。
琉菜様リクエスト、夢で前マスターを見て嫉妬するマスターとアンデルセンでちょっと甘い話。


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