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「なるほどなるほど。私の事を好いていたと。なるほどなるほど。道理で甘い香りがすると思ったよ」

足下から花弁を咲き散らかす男、マーリンはなるほどを繰返しまくりながらにまにましている。
なんとも腹のたつ顔である。

「…どうせ知ってたんでしょ、その便利な便利な千里眼とやらで。会話とか色々」

「まあ、そうなるね」

しれっと。
やはり腹のたつ野郎である。

……その腹のたつ野郎を好きになってしまったのが私なのだが…。
実に不服である。不服ではあるのだが。


初めての出逢いは夢の中だっただろうか。
心地好い光と鳥のさえずり。
花舞う園に虹を透かせた白い男。

───やあ。ようこそ楽園へ。神埼。

柔らかな声色で、伝えたはずもない私の名を呼ばれた。
今思えば中々に気味の悪い話だったが…やはり美しいものは美しかったのだ。

そして現実で対峙した際に夢の出逢いがフラッシュバックし、そのまま恋に落ちたのだ。
何を言っているのか自分でもよくわからなかったが事実は事実なので仕方がない。

で。
好きになったはいいが、コイツ…マーリンはとんでもない色ボケクソ人外野郎で扱いに困るったらありゃしない。
しかし好きなものは好きなのだ。
なぜだ。


「愛の形は人それぞれだ。気にすることはないよ、神埼。なにせ私もよく複数の女性を同時に愛したからね!お陰様で大変なことになったけどそれはそれだ。愛そのものに罪はないとも。」

「うわ〜塔に幽閉された人がなんか言ってる〜説得力あるけど参考にしたくないな〜」

「神埼。本音が漏れているよ」

「これは失敬、」

ヘッ、と効果音が付くであろう表情を作ってみるもマーリンは特に動じない。
クソが。
私だけが振り回されているみたいじゃないか。

「それで?ロマニはなんと?」

「いや知ってるでしょ」

「まあその通りなんだけどね!でも、そこは神埼の口から聞くことに意味がある気がしてね」

「……」

やはりこの男はどこか意地が悪い。
的確に私が"嫌だ"と思う部分をつついてくる。
それだけでなく、"嬉しい"と思う部分をもつついてくるものだからたまったもんじゃない。

「はぁ。…言わないと面倒なことになりそうだから言うけど。『変えようにも変えられるってものじゃないから自分は受け入れる。でも正直なところ自分だけを見てもらえたらいいなあ』って。言ってくれた」

「彼もだいぶヒトらしくなったなあ…」

「……??」

ニンゲンらしく…??
私の怪訝な顔を見て何かを察したのかマーリンは軽く否定する。

「いや。君はまだ知らなくていい。そのうち、そのうちわかるさ」

「なーーんか引っ掛かるなあ…」

「そりゃあそうだろう。ヒトという生き物は隠し事をされると余計知りたくなるものだろうし」

あくまで大多数の話だけどね、と付け足す。
恐らくこの話もいくら踏み込んでも答えてくれそうにないので一旦ここで引いておくとしよう。
いずれわかるらしいし。

「それにしてもロマニも悔しいだろうなあ…ははっ、これは面白くなってきた。しかしアレだな。私としても出来ることなら私だけを見てほしいとは思ってしまうな…
君がポリアモリーである事、恐らく断られるであろう事を承知した上で聞くが、ロマニのことを忘れて私だけを見てはくれないか?」

「現状無理です」

「やっぱりかー…」

「そもそも何股したかわからない人に言われても困るというか、それこそマーリンも随分ヒトらしいこと言うようになったんじゃないの?」

思ったことをそのまま伝えてみる。
遊び人に私だけを見てくれと言われても非常に困る。
棚上げですか。棚上げですか?
いや、私も人の事を言えたもんじゃないのかもしれないけど……

「そんな正論を言われたらお手上げだね。まあ、神埼が私を好きでいてくれるという事実だけでも腹が膨れるってものさ」

「私はマーリンのごはんじゃない」

吐き捨てるようにそう言うとマーリンに、はっはっはと軽快に笑い飛ばされた。
やはり何か腹のたつ野郎だ。
好きだけど。

「まあまあ。私はそもそも夢魔だからその辺は多目にみてくれ。君がポリアモリーである事も気にしないとするし。ロマニも言っていたように、生まれもった性質は変えられないだろう?そういうことさ」

「……それも、そうだね」

「うん?神埼。君はロマニの話をした途端素直になるね?」

「だってマーリンうさんくさいし」

「はっはっは」

「あっはっは………この野郎ッ!!」

べしっと額に手刀をブチ込む。
少しは気が晴れたかもしれない。

「そんなことをされたら痛いじゃないか。いくら夢魔とて痛いものは痛いと言っただろう」

「さてどうだったかな覚えてないなー!」

「神埼は本当に私の事が好きなのかい?
…いや、この味は間違いなく"好き"という味だが……何かどこか辛いような…」

「仕方ないじゃん腹がたつものは腹がたつんだから。仕方ない仕方ない」

「ああやめてくれ、仕方ないと言いながら私を叩くのをやめよう神埼」

ぽこぽこと大して強くもない打撃をひたすらマーリンに与え続ける。
なんだかちょっと楽しくなってきた。

ぽこぽこぽこ。ぽこ。ぱしり。

…ぱしり?

「神埼。そろそろいい加減にしないと私も怒るよ?いや正確に言うのであれば怒るようにする、といった所だが。
…ふむ。ただ怒るのもつまらないな、」

ぽこぽことマーリンを叩いていた腕はすっかり捕らえられていて、押すことも引くことも叶わない。
あれこれもしかして私はピンチ?

「折角マイルームに居るんだ。少しお仕置きとして君から魔力をいただくとしようか。ああ安心してほしい、痛くはしないさ」

「は?!え?!ちょっ、なにす、うわわ、脱がすのは」

「うん?神埼は着衣プレイが好きなのかい?それはいいね、たまにはそういうのもいいだろう」

「いやいやいやそうじゃなく、…っひん?!」

つぅ、と太股を指がなぞる。
非常にくすぐったい。が、くすぐったいようなもっと別なもののような、

「仕方ない仕方ない。素直に気持ちよくなろうか神埼」

「仕方ないで誤魔化すなーー!!!」


話をつけるだけで終わらせるつもりだったのに。
このあとマーリンとの初めてまで済ませてしまったのだった。
……ちなみに着衣でした。



2/28
対ロマニとの温度差が酷い。


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