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「え、えっと…その、」

普段は着ないような、真っ白で、上品で、清楚なワンピース。
試着室から出て、おずおずとセイバーに話しかければ彼女は優しい笑みを返してきた。

「とてもお似合いですよ、ルイ」

黒いスーツをすっかり着こなしているセイバー。
その笑みは本来年端もいかぬ少女のものである筈なのに、立派な騎士…言ってしまえば王子様のようにも感じ取れる笑みであった。
おまけに、セイバーはただ見た目や振る舞いだけが騎士なのではなく、本当に騎士だと言うから驚きだ。
尤も。その姿に惚れ込んだようなものでもあるのだが。

「…セイバーは、こういうのは着ないの?」

ふと疑問を口にする。

「いえ。私は騎士として育てられましたので。そういった事はありませんでした。それに…」

とん。と片膝をつき、私に手を差し伸べるセイバー。

「今日の私は貴女をエスコートする騎士ですから。ルイ」

「!!!!!」

それこそ本当に王に仕える騎士のように傅いてみせるものだから、嬉しいやら恥ずかしいやらで言葉を失ってしまう。

「あ、あまり、そういうのは、ナシにして欲しい、かな…」

「何故です?」

彼女は、『そうするのが当たり前でしょう?』と言いたげな瞳でこちらを見上げてきた。
セイバーにとっては当たり前かもしれないが、一市民、一般人の私からしてみたらそれはとても現実離れしたもので、それも友人がふざけてするものとは規模が違うと言えば良いのか。
あまりにも整った容姿に完璧な仕草。
そんなものを何度も見ていたら心臓がいくつあっても足りない。
現に一つほど蒸発してしまいそうな程だ。

「そ、その…ほら、人もいるし…」

セイバーはうーん、と暫く考え込み、長考の末、なんとか折れてくれた。


*


そんなこんなで昼間はショッピングやランチ等、セイバーのエスコートによる、まさにデートとしか言い様のない時間を過ごした。

はぐれてしまってはいけませんから、と手を優しくとられたり、ふとした瞬間にばちりと視線がぶつかったり。
何度も胸が高鳴って、いや、むしろずっと胸が高鳴り続けていた。


*


夜。
セイバーに案内されたのは、穏やかな紺色と青白い砂が広がる海岸だった。
月の光が水面に反射し、銀色に煌めく。
そして、隣に佇むセイバーの髪は月の光を抱き、透明感溢れる金色に耀いていた。

「……きれい、」

思わず口からこぼれた一言。
だって、あまりに綺麗だったんだもの。
だけどセイバーは、

「…ええ、とても綺麗ですね。穏やかな海は良いものです」

と、私とは少し違う観点で綺麗だと言った。
そしてもう一言。

「ですが。ルイ、貴女も大変美しい」

「!!!」

「貴女は『自分にはこのワンピースは似合わない』と仰有りましたがそんなことはありません。月の下で耀く白とそれに劣らぬ貴女の真っ直ぐな瞳。ルイ、……ッ、ルイ!!!」

セイバーがあまりに褒めちぎるものだから驚きと恥ずかしさでついバランスを崩してしまい、重心があらぬ方向へと傾いてゆく。
このままでは、倒れる───

ばすり。

「せい、ばー…」

「お怪我はありませんか、ルイ」

「だ、大丈夫……だいじょう、ぶ」

「ルイ…???」

セイバーが綺麗に受け止めてくれたお陰で砂浜に落下することもなく、無事に体勢を取り戻す事が出来た。
出来たのだが……受け止めてくれたセイバーの顔があまりにも近くて、顔に熱が集中する

「ルイ、まさか、熱でも…?いけません、それならば早く対処しなければ」

「ひゃあ?!」

ひょい、と軽く、あまりにも軽く抱き上げられる。
慌ててセイバーの首に手を回してしまったが、これは所謂姫抱きというものではなかろうか。

「あ、あっ、…ぁ……」

先程よりも、更に近く。
翡翠の虹彩がくっきりと見えるほどに近く。
余計に熱が上がっていく感覚。

「ルイ、体調が、」

「ち、ちが、違う…の……」

「?? ではどうされましたか?」

こてり、と昼間と同じように首をかしげるセイバー。
束ねられた髪がさらりと滑る。

「…その、セイバーがあまりにも、…近くて、どきどきしちゃって」

「………、……?」

「あっ、!その、気にしないで!!大丈夫だから、おろしてもらっても、いいかな…」

うーん?とセイバーは悩むように瞳を閉じる。
一人で慌ててしまって恥ずかしい。
早急にこの状況から抜け出さねば、

「ええ、……いえ、やはりこのまま帰宅しましょう」

「?、」

抜け出さねば、と伝えて肯定された…と思いきや否定の言葉。
身体に異常もないし、こうしている必要もないと思うのだけど…
疑問に思い、言葉にして訊ねてみる。

「なんで…??」

「私がこうしていたいからです、と言ったらどうしますか?」

「!!!!」

細められたその優しくも少しいたずらな瞳。
今度こそ顔から火が出るかと思うほどに顔が熱い。
セイバーの顔を直視できない。

「ルイは、愛らしい。…とても愛らしい。ええ。…いつ、言おうかと思っていましたが……私にとって貴女はとても好ましいヒトだ」

「っ、!!!???」

「ふふ、そんな姿が愛らしいと言っているのですよ。…立てますか?」

「は、はひ……」

すとん、と地面に優しく降ろされる。
心臓がばくばくと暴走していて、もう気が気でない状況で。
そんな私とは対称的に、穏やかな海のように涼やかな笑みを浮かべているセイバー。

「さあ、帰りましょう。ルイ」

そっと差し出された手に、恐る恐る手を添えれば、優しく握り返される。

潮風がもう少し強く吹いてくれたらこの熱も落ち着くかもしれないのに。

止まらない胸の高鳴りを抑える方法を必死に考えながら、私とセイバーは帰路についたのだった。


2/27
凪様リクエスト、Zeroスーツセイバーにどきどきしてしまう話。
あとがき


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