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※1.5部までのバレ含む





マシュのナビゲート。
後輩からのおかえりなさいの一言。
時折彼の姿が重なっては脳裏に浮かべて、唇を噛み締める。
幸い、新宿で忙しなく、ひっきりなしに事件に巻き込まれていたお陰かミッションに差し障りはなかったけれど。


シャワーを浴びて、一呼吸吐いたその瞬間、それらはやってきた。

「ぁ、う、ぁ…ろま、にぃ……っ!!!ろまに、ろまに、ぅ…ああああ…っ」

まるで子供のように泣きじゃくる。
あの人はもう、帰ってこないんだ。

情けないようで、本当はとても頼りになる。
しっかりと私達を休むことなく見守っていてくれた彼。
ふわふわのポニーテールも、へにゃっとした笑顔も。
司令塔としての真面目な声を聴くことも、然り気無く鍛えられていた身体に抱き締められることも。
もう、叶わない。

彼はもういない。

人は、人の死を乗り越えなければならない。
人は、時を経て人の死を少しずつ忘却し、飲み込み、乗り越えていく。

だけど、今の私には、少し難しくて。
シャワールームでへたりこみ、涙をこぼす。
頭上からザアザアと雨のように暖かい水が降り注ぎ、私の頭を、頬を、身体を浚ってゆく。
どこからどこまでが涙なのかは、最早誰にもわからない。

いつかどこかでひょっこりと現れたりしないだろうかと淡い期待もしたが、現実はそう甘くはなく。
あれは夢でもなく現実で、やっぱり彼に会うことは叶わなくて。

やっぱり、彼に会うことは、叶わなくて。

期待と現実のギャップが苦しくて。
ぐずぐずと涙やら何やらで顔がぐちゃぐちゃになるほど、一頻り泣いて、泣いて。
瞼の裏に彼の笑顔を思い浮かべる度に、底無しの涙が溢れだして。

いつか、乗り越えなければならないロマニとの別れ。
それはいつになるのかはわからない。
だけど、だけど。
彼のお陰で世界は救われた。
小さなひとつの願いが世界すべてを救った。

ヒトになりたい、その願いが世界の救済へと導いた。
それと同時に、いや、副産物のようなものなのかもしれないが、私との出逢いもあって。
最期には早すぎる別れがあると知っていて。

それでも、それでも。

彼が、総てを擲ってまで救った、紡いだ未来を守るために。
私は、乗り越えて、先に進んで。

どんなに辛くても、先に進まなければ。

きっと彼もそれを望むだろう。
それならば、私は全身全霊を掛けて未来を紡ごう。


だけど今だけは、少しだけ、想い出に浸って、涙を流させてください。
少しだけ、時間をください。

未来を救うために、少しだけ心の整理をさせてください。
胸に手を当てて、今までの想い出とこれからの未来を描く。

苦しいけど、苦しんでいるだけではいけない。
時間は掛かるかもしれないけども。
きっといつか、いつか。

───少しだけ、ごめんなさい、ロマニ。それと、本当に、ありがとう。
いつか乗り越えてみせるから。
貴方のことは忘れずに、乗り越えて。
貴方の意思を未来に繋げるために。
私は前を向きます。
涙は依然として止まらないけれど、前を向きさえすれば。きっとなんとかなる。
なんとかしてみせる。

大好きな貴方のために。
貴方の大好きなこの世界のために。
私も覚悟を決めよう。

シャワーの水滴と同化した涙を拭って前を向く。


「頑張るよ。ロマニの愛した世界のために。」


ぺたりぺたりとシャワールームを後にする。
さあ、気持ちを入れ換えよう。
まだまだ辛くなることもあるだろう。
だけど、私にしか出来ないことがある。
だから。

世界のために。私のために。ロマニのために。
俯かないで、前を向こう。


ありがとう、ロマニ・アーキマン。
私は、私だけでも。
貴方の事は忘れはしない。

だから。
任せてください。
きっと、貴方の愛したこの世界を、救ってみせます。
だから。いつか。きっと。

きっと。



2/26
新宿帰りのカルデアにて。
あとがき


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-雨夜鳥は何の夢を見る-