「…あのね、ロマニ」
「どうしたんだい、神埼ちゃん。そんな神妙な顔つきで」
ロマニと二人、マイルームで向かい合う。
先日発覚した事実を伝えるために。
二人を同時に愛する事に異を唱えられるかもしれない。
ロマニに嫌われてしまうかもしれない。
そんな恐怖に支配される。
だけど。
黙っている事、その方が余程いけないことだと、私の中の何かが叫んでいた。
本気なんだ。ならば。
「…好きな人が、できたの」
「………、……え?」
ああ、その顔。
戸惑い、だろうか。
「でもね、ロマニ、聞いて。私はロマニの事を。今でも全力で愛しているから。私、ポリアモリーの気質があるんだって。でね、ロマニ、あのね、その……」
固唾を呑み、最後の覚悟をふりしぼる。
「ロマニが嫌なら、私を嫌いになったなら、私と別、」
「そんなこと…っ!!!」
ガッ、と慌てたかのように、勢いよく両手で肩を掴まれる。
そして一呼吸置いて、真摯な瞳で一言語りかけられた。
「…君が、君はそれを望むのかい」
まっすぐとしたライムグリーンの瞳。
真剣に、私を案じるようでありたしなめるような瞳。
「わたしは、」
私は。
ロマニと離れることなんて、
「望むわけ、無いでしょぉ…っ!!」
ぽろり。
ぼろぼろと、涙が溢れてくる。
ロマニに拒否されようと肯定されようと、私の気持ちはひとつ。
ロマニを愛しているから。離れたくない。
それが、本心。
ロマニはそれを知っていたのか、見抜いてしまったのか。
そっと微笑みながら私を抱きしめる。
「…神埼ちゃん。君は、たまには我が儘になってもいいんだよ。確かにボク以外に気があるのは、不満がないとは言えないけど…それでも、君の性質は変えようにも変えられないものだ。それなら、ボクは君を受け入れよう」
慈愛に満ちた声色で、私を肯定して。
そのままそっと頬をなぜられる。
ああ、涙がどんどん溢れ、溢れ、止まらない。
優しくて、暖かくて、大好きなてのひら。
止まらない涙、呼吸もままならないまま、それでも私は感謝の言葉を伝えた。
ありがとう、ロマニ。
心の底から愛してる、大好きだよ、と。
*
ロマニは私の背中をとんとん、とあやすように撫ぜながら優しく語りかけてくれた。
「神埼ちゃんが言いたくないならいいんだけど、…差し支えなければ教えてくれないかな、その。好きになったっていう相手」
少しだけ、寂しさを隠しきれない声色で。
聞かれたのなら、私は答えよう。
ロマニが私を認めてくれたように、すべてを委ねよう。
「……まー、りん、」
とん、
背中を撫ぜる手が止まる。
「…………うん?」
明らかに怪訝な顔をしているであろう、そんな声が頭上から降ってきた。
ああ、やっぱりそうなったか。
「…いや、うん、……神埼ちゃんが好きになったなら、仕方無い、ね。仕方無い…仕方無いね……うん……わかった、わかった、……」
「なんか、…ごめんね」
思わず謝る。
そりゃあ、仇敵の名前が出たら戸惑わずにはいられないだろう。
そこを、それでもなんとか認めようとしてくれるロマニに感謝の気持ちしか浮かばない。
ロマニは、優しすぎるよ。
「いいんだ、いいんだよ神埼ちゃん。仕方のない事さ、…まあ、悔しくないかと聞かれたら、そりゃあ苦言を呈さずにはいられないけども。仕方無い、さ」
「…ばか」
「あれっ?!ボク今何か間違った事言っちゃった?!」
「違うよ、……もう」
ちゅ、と軽く唇をおしつける。
「!」
えへへ、と笑って誤魔化す。
改めて、ありがとう、ロマニ。
「だいすき」
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優しすぎる恋人に、うちあけた心の内。
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