「私の恋人になって欲しいって言ったら……困るかな?」
呼び出されたのは屋上、夕方。
太陽が傾き、世界をオレンジ色に染め上げた頃。
杏奈ちゃんが放ったその一言で、僕は太陽より赤くなってしまった。
「ぼ……僕でいいの?」
「真君がいい……真君だからいいの……」
彼女はやや俯き、手をもじもじとさせながらこちらの動向をはかっている。
残念ながら、僕は恋愛経験に乏しくて、こういった経験には慣れないし、慣れる日が来るとも思わない。
「え……っと……」
だけど、僕にとって杏奈ちゃんからの誘いはいつでも嬉しくて、楽しくて。
毎日がもっとキラキラしたものになったんだ。
それならば応える言葉はひとつ。
ひとつ、なんだけど……
中々声が出てくれない。
いいよ、の一言で事は済むのに。
今までの関係から逸脱してしまうような気がする、だとか。
だけど杏奈ちゃんと付き合えたらどんなに楽しいだろうか、だとか。
考えがまとまってくれなくて、僕は言葉にならない言葉を繰り返しているばかりだ。
ならば、と僕が出した結論は──
「──えっ?」
「こういう、こと、……です」
もじもじとさせていた杏奈ちゃんの手をとって、柄にもなく敬語になってしまったりして、結論を伝える。
「よろしく…お願いします……」
「こっ、こちらこそ!よろしくお願いします……!!」
僕の返答で、杏奈ちゃんはぱあっと顔を輝かせ、握った手を握り返してくれた。
嬉しくて、むず痒くて。でもやっぱり嬉しい。
僕も杏奈ちゃんの事が好きなんだということを自覚した、夕暮れ。
たどたどしいけれど、ゆっくりと、少しずつ慣れていけたらいいな、なんて。
暮れゆく太陽が、僕たちだけを照らしていた。
09/06
初々しさの権化
back