「別に助けてくれなくても大丈夫だったのに…まあ…一応、感謝します。本当、物好きが多いのね、この町は。」
緩やかなウェーブを描く銀糸の持ち主は、少しだけ虚ろな表情で感謝の弁を述べた。
一言余計な辺り、流石言峰の血を引いているだけはある。
ところで。
「ねえカレン。どうしてここに?こんな暑い時期に、しかも…ほら、言峰居るし…」
身体も弱いというのに。
言峰も居て代理が必要なわけでもないのに。
相変わらず"あっち"は読めないというか人使いが荒いというかなんというか。
カレンは一息置き、
「…あら。聞いていないの?明日から」
「私は少々席を外す事になる。せいぜい数日だがな。そのうちの代理だ」
要件を告げようとした所に言峰が現れ口を挟んだ。
神出鬼没もいい加減にしてほしいものである。
おまけに、知らなかったのか?と言いたげな顔でこちらを見下ろす。
いや、聞いてないし。初耳ですし。
「そういうわけだ。留守の間はこれに教会の管理と…ああそうだ」
大事な事を忘れていた、と私の頭を鷲掴みにする。
「その間、今回特別にランサーのマスター権を移動、貸与する。…神崎、お前にだ」
「えっ、そんなことできるの」
「やればできる」
まるで根性論のような言い種である。
まあ言峰が出来ると言えばきっと出来るのであろうし、パスについては以前から通しているのだ。
戦闘さえ起こらなければさして問題は起こり得ないだろう。
「カレン・オルテンシア、貴様にはギルガメッシュを。そして預託令呪の引き継ぎを行っておこう。くれぐれも私の居ない間にロストしないことを願う」
「私が教会の管理者になるのだからそれくらいは当たり前でしょう。で?何か不穏な言葉が聞こえたのだけれど気のせいかしら?」
「万が一の事があって後に文句を言われても面倒なのでな。先手をうたせてもらった」
回りくどいんだか親切なんだか迷惑なんだか。
思わず私はどこぞの赤い弓兵が如く眉間に皺をよせる。
それにしても…何故だろうか。
言峰の皮肉ぶりはいつも通りで何の問題もないのだが、別方面で嫌な予感がするような、…しないような。
「それで?契約はいつ行うのかしら。狗が逃げてしまってからでは遅」
「だぁから狗って言うなっつの!!!第一逃げたくても逃げられねえし!!」
「狗は狗だろう」
カレンが問い質している間にランサー、ギルガメッシュ二人が部屋に現れる。
ランサーは少々間が悪かったようだが。
「カレン・オルテンシア。契約はいつかと言ったな、そう余計な時間は作らん。こちらもやることがあるのでね、」
そこで言峰は一息置いて、
「今ここで契約は行わせて貰う。拒否権は無い。多少身体に負荷が掛かるだろうが体調は自己管理だ。精々己の身体の脆さに悔いるがいい」
うええこの神父いつもより毒気つよい…
私も少しは疲れてはいるがカレンのことのほうが気がかりである。
さて。
今、この場にはヒトの姿をしたものが五つ。
ふぅ、とため息を吐く者。
特に何の感想もなく暇そうな者。
鋭くも落ち着いた眼で睨み付ける者。
ただただ状況に呆れ返る者。
そして、始まりのコールをする者。
「では。契約を行うとしよう。仮初めのマスター達よ」
こうして、混沌への一手が投じられたのだった。
6/3
マスター権ゲットだぜ
追記:
読んでの通りカレンの口調は"素"仕様です。
カレンの気分で口調は今後も変化するのでご了承下さい。
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