小ネタ | ナノ
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それまで纏っていた穏やかな雰囲気が嘘のように殺気に塗れていく。桃子は危険を感じ取り身を翻そうとしたがそれは叶わず男の腕に囚われてしまう。
「ちょっと、離しなさいよ!」
息巻きながら逃れようと身を反らせたがそこは歴然とした男女の力の差に敢えなく封じ込まれてしまった。頑丈でいくら押してもびくともしない逞しい腕によって壁を背に押し倒される。
「さて味見といくか」
男の酷く喜悦に満ちた声音の裏に残忍さが潜んでいることに気づき桃子は唇を戦慄かせた。だが男はそれすらもそそるようで鮮やかな黄金色に変わった瞳を眇める。そうして桃子の着ているポロシャツを強引に剥ぎ取ってしまう。
「や…っ、」
桃子はちいさく悲鳴を上げやがて訪れるであろう不快な感触から少しでも逃れようと瞼をきつく閉ざす。男はそんな様子の桃子を目の当たりにし、歪んだ笑みを流麗な唇に刻みつけた。しかし次の瞬間、男の表情が驚愕の色に染まっていく。
「お、お前…何故?!」
男は焦ったような声で叫んだ。桃子はいつまで経っても降ってこない愛撫に疑問を抱き閉ざしていた双眸をそろり、と開けた。するとそこには今まで見たことのない形相で男を睨みつけている響の姿が在って。
「…なんでここに、」
息を整えながら急ききったように問う桃子に響は一瞥をくれたのみで何の反応も示さなかった。
「ふうん。さしもの堀川も自分の花嫁のことになると案外、骨抜きなんだな」
男の揶揄らう口調に響は、ぴくりと形の良い眉を器用に片眉はねさせ瞳を伏せた。
「救いようのないやつだな、そんなに殺されたいか」
先ほどとは打って変わった冷え冷えとした声音からは一切の感情すら読み取れなかったが彼の浮かべる表情が凄まじい怒りを物語っていることは桃子でも分かった。
「おいおい、そんなに怒るなよ。第一俺は手すら出してない」
そう言い男は嘲笑する。その言葉に響の視線が無惨に刻印をさらけ出している桃子に向けられた途端、彼の黄金の双眸に呆れや苛立ちとも似つかないものが見え隠れしていて桃子は思わず瞳を伏せた。
「この女は俺のものだ。指一本でも触れてみろ、貴様の命はないと思え」
そんな響の意外とでもいうべき台詞に桃子は目を見張った。
「え…?」
その瞬間、鈍い衝撃音が辺りに響き渡った。桃子が確認するより早く男の身体は地に沈んでいる。響はやっと一仕事終えたとばかり大仰に嘆息した。
「何故、俺を呼ばなかった」
突然の問いかけに桃子は、ぱちくりと目を瞬いた。まるで自分の行動を咎めるかのような口ぶりに桃子はびくりと肩を揺らす。
「人気なかったし大声張り上げてもあんたに届きそうもなかったから」
そう正直に告げると響は盛大に眉を顰めた。
「馬鹿にも程がある」
「あんたってやつは本当むかつくわね」
聞き捨てならない呟きに噛みつく素振りを見せると響はくつくつと喉を鳴らし桃子の頭を、ぐいと無造作に引き寄せた。とっさに踏ん張りきれなかった桃子は当然、響の胸に飛び込む形になる。
「―っ!」
迫る床に思わず目を瞑り、しかし軽い衝撃と共に収まった場所はひどく温かな場所だった。そろりと顔を上げた桃子の眼前には響の整った顔があって先とは違った意味で息を呑む。



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