東月は授業に行け。
星月先生にそう言われ俺は自分の教室に帰ろうと足を進めていた。
だけれど、俺は足を止めた。
『大丈夫』。そう繰り返す尚はまったくこれぽっちも大丈夫に見えなかった。
どうせ俺に迷惑かかるからとか思ってたんだろうけど。
だから強がるなって言っただろ。どうせ分かりやすいんだから尚は。
だから素直に甘えろって言っただろ、俺は世話焼きなんだから結局手出しちゃうんだからさ。
俺は来た道を引き返して、応接室へ向かった。
応接室の前では腕組みをした星月先生と尚の担任の松本先生が壁に凭れて難しそうな顔をしていた。
俺の姿を見つけて星月先生は複雑そうな顔をした。
「………戻ってくるような気はしてた。外れたら良かったんだけどな」
はあ、とため息をついた星月先生に俺は苦笑いで、だけれど怒られても戻る意思がないと示した。
「すいません。でも、このまま戻ったって授業に身入らないと思うんです」
「ああもう分かってるから静かにしてろ」
そう言われ、俺は扉に顔を寄せた。
中からは声が漏れて聞こえる。尚はどうやら一方的に言われてるらしく尚の声は聞こえない。
「…」
嫌いだとか、そんな尚を拒否する言葉が聞こえる。
俺は拳を握った。
そうして一際大きい声が、中から聞こえた。
「都月のことを考えてくれるのなら、どうして会ったりするのよ!」
その言葉で俺の我慢はもう駄目だった。
あなたの言葉に、尚がどんな顔をしてどういう風に耐えてるのか分かるのか。
俺はドアノブに手をかける。
「東月!」
星月先生が俺の腕を掴む。
その力の強さがやめろと言っている。だけれど。
「尚が、言いたいこと言えてないんです」
だから、お願いします。
ドアノブを掴んだ俺の腕を握る星月先生の力が緩んだ。
ごめん、尚。
あとで殴っても罵っても嫌ってもそれでも良い。
触れる5秒前
(君が笑ってくれるのなら、)(それで良い)
title by 約30の嘘