「…っ天音!」
『へ、あ…っと、こたせんせー…?』
気付くとドアップのこたせんせーが居た。その後ろには直ちゃんせんせーが不安そうに私を見ていた。
『あれ、えっとわたし…』
どこだっけここ。
辺りを見渡すと学園前のバス停のベンチのようだ。それにしても真っ暗である。
「お前が、夜になっても帰ってきていないって連絡が入ったんだ」
『ああ…、えっとごめんなさい…』
バスは降りてたんだ。凄いな私。
はあー…と長いため息をついてこたせんせーがチョップを下す。
ちょっと痛いのはそれだけ心配してくれた証だ。私がその痛さに文句を言えるわけない。
その後ろで直ちゃんせんせーが電話をかけている。
見つかりました、とかなんとか言っているから多分私のことなんだろう。
「多分病院だろうと思ってバス停に来たらお前は…一体いつから居たんだ…」
手を握られるとじんわりとこたせんせーの体温が伝わってくる。
『え、っと…六時とか、そのぐらい…』
「………馬鹿」
今が何時かは分からない、だけれど心配されるぐらいには遅い時間なのは分かった。
そっか、そんなにぼけっとしてたのか。
「琥太郎センセ、俺とりあえず職員室戻って報告してくるな」
「ああ、頼んだ」
「天音ー、あんまり心配かけるんじゃねーぞ!」
ぐりぐりと頭を撫で回す直ちゃんせんせーに私はごめんなさいと謝っておいた。
直ちゃんせんせーの背中を見送ってから私はこたせんせーに声をかけた。
『私あの家の子供じゃない、みたいです』
そう伝えるとこたせんせーが細い目をいっぱいに広げた。
へらっと無理矢理笑った顔はとんでもなくぶさいくにちがいない。
「なんだ、それ…」
『あの、ね』
私が説明し終えるまでこたせんせーは黙って俯いていた。
『でもねああそうなんだ、って納得出来ちゃったの』
こう言っては語弊があるかもしれないしれないけれど都月くんが私を追って倒れただけであそこまで嫌ったのは、根本にこういう理由があったわけだ。
『…だから、』
だから一番悲しいのは。
『その状況に慣れちゃった自分が一番…悲しい、かな』
鼻の奥がつんとして、それから涙がぼろぼろと溢れ出す。
『っ、ふ…っ』
「…天音、帰るぞ」
そう言いながらこたせんせーが私を持ち上げる。
今の私には抵抗する気力もなにもかも持ち合わせていない。
ただどうして抱き抱えられているのだろうか。
『こ、たせんせ…?』
「泣いてて良い」
ぽん、と軽く二回程背中を叩かれて私は促されるままに涙を流した。
やっぱり幾ら嫌われても、苦手だと思っていてもいたいものはいたかった。
すよすよと眼前に目元を真っ赤にした寝顔が晒されている。
一応は寝つけたようなので安心した。
こんな、小さな身体で背負うのには重すぎるだろうに。
きっとこの学園に来るまではそれを降ろせる場所もなかったんだろう。
膨らんだそれ
(重すぎてもう歩けないくらいに)