『都月くん、来たよー』
忙しい合間を縫っては私は都月くんを訪ねた。
都月くんはいつものように私を迎えてくれる。
「そうだ、俺そろそろ退院できるみたい」
『そ、…っか』
それは都月くんが家に帰るということで、つまり今日みたいに会えなくなる。
大体今回の入院も風邪を警戒しての入院であってそんなに長引くわけではない。
『良かったね!』
無理矢理笑顔を作ってそう伝える。
「あんまり嬉しくないんだよなあ…、家に居ても勉強させられるだけだし」
じゃあずっと病院に居てよ、なんて言葉は呑み込む。
まあまあ、と宥めようとしたら病室の扉が開いた。
『!』
「つづ…尚!?」
「ああ、母さん」
どうしたの、そう問いかける都月くんに母さんは私から視線を反らしなんでもないわよと取り繕った。
「尚、そろそろ暗いけど大丈夫かしら?」
『…そうですね、』
言外に「帰れ」と言っているのだ。
私はパイプ椅子を片付け、傍らに置いていた鞄を掴む。
『そろそろ帰るね。お大事に』
「うん、尚も気をつけて帰るんだよ」
病室から出る間際で母さんが「送っていく」と声をかけてきた。
私は思わず体が固まる。な、なんで…?
後ろで母さんが一緒に送ろうとした都月くんにここで待っていなさいとキツイ口調で言っていた。
「どうして、何度も言ってるのに分からないの?」
腕を組む母さんは私をさっきよりキツイ口調で詰る。
『…』
「…あなたが都月に会うと記憶が戻るとか、考えないの?」
私はぐっと拳を握る。
「私は貴方が都月の妹なんて認めないわ」
『! それは、母さんが決めることじゃ…ないです…!』
初めて、反論したかもしれない。
「妹?…は、知らないの?なんだ、だからそんなに図々しいのね」
知らないって幸せなことよね。そう言いながら私から目を逸らす。
『なにを…』
「貴方が私の子供じゃないってことよ」
言葉が詰まる。
私の顔を見て、母さんは嘲るように笑うのだ。
「私の血液型はA、あの人…貴方の父親の血液型はAB型、ねえこれだけ言えば分かるんじゃないの?」
わたしの血液型は、O型だ。
A型とAB型の親からO型の子供が産まれることは、まずない。
ということは、結局結論は一つしかないようで。
考えようとした矢先にやって来たバスに押し込まれるように乗り込まされた。
歪みっぱなしの
元が歪んでいるのだから、後は全部歪むだけ。
2012.06.06 修正・加筆
2012.06.07 修正・加筆