一度だけ | ナノ
「よし天音。その格好で学園徘徊してきてよ」

遙くんの言葉に私は飲み物の入ったカップを落としかけた。危ない。


『え、その格好って…、これ…?』
「うん、それ」

裾を持ちあげてみせると遙くんはバインダーを見ながら自分の飲み物を一口含む。

「幸いうちのクラスはアレンジが効いてるし、女子が居るってことで一応の人気が出てる」

多分持ってるバインダーは午前中分のお客様アンケートの集計結果だと思う。

実はうちのクラスの今日の最終演目をまだ決めていない。
アンケートしていてそれの結果で決めるらしい。これはちなみに遙くんの提案だ。

「で、さっき集計が出たんだけどさ。…お前の「こと座」だったわけね」
『うん、つまり…?』
「宣伝してこい。一人で」

なにそれ恥ずかしい!!またカップを落としそうになった。

『なんで一人!?相手役の高橋くんは!?』
「高橋いまどっか行ってる」
『高橋くんんん!!』

高橋くん恨む。まじでがちで恨む。明日なんか奢ってもらう。

「よし行って来い、」
「天音ー!衣装汚すなよー!!」
『うああ!ちくしょう行ってきます!!』

衣装係の男子に声をかけられ、目に涙を浮かべて神話科の教室を出た。


『お邪魔しまーす!』

そろそろ開き直ってきた私に四角はない。
よって賢者モードの私は堂々と衣装のままで天文科の教室を開けた。

「あっ尚ちゃん!」

天文科の教室を開けるとそろそろ閉店だったらしく片付けに追われていた。

「って、それ衣装?」
『あはは…そうですー』

頭からレースっぽいものを被らされたりと徹底的に神話にでてきそうな服装にさせられ、メイクにウィッグまでつけられるという始末。実は意外と腰まであるから頭が重いんだよなあ。

「わー…凄い可愛い!!」
『衣装担当に言っときますねー』
「尚ちゃんも可愛いよ!それでどうかした?誰かに用?」

うーん、月子先輩のが絶対可愛いのになあなんて思いつつありがとうございますーと笑っておく。

『えっと、用っていうか…もうちょっとしたら神話科のクラスで今日最後の劇するんでそれの宣伝…みたいな?』
「へー…尚ちゃん出るの?」
『えっと、…はいああ…うんまあはい』

歯切れ悪く答える。月子先輩に首を傾げられる。

『や…もう毎回毎回台詞噛んだりしないか気が気じゃないんですよ!』
「ふふ、大丈夫だよ。いっぱい練習したんでしょう?」

月子先輩がやわらかく微笑みながら頭を撫でてくれた。
ああもう月子先輩まじ女神!私は衣装のことを気にせず月子先輩に抱きついた。

『もう月子先輩ちょう好き!』
「あははっ私も尚ちゃん好きだよー」
女神の微笑み
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