一度だけ | ナノ
「都月!」

保健室にやって来た叔母さん、基私の母親でもある人が都月くんに駆け寄る。

「大丈夫なの!?濡れてるじゃない!」
「ははっ大丈夫だよ。母さんは過保護すぎだよ」

態度が違いすぎて笑えてくる。こたせんせーなんか唖然としている。
ちなみに錫也先輩は私の後ろでその光景を見ている、と思う。

「まったくもう…!」
「ごめんってぱ」
「都月が無事なら良いわ!さ、帰りましょう」

さっさと帰りたがるのは私が居るからだろう。
都月くんに見えないように私を睨んでいるから。

「はいはい。じゃあ、尚。また来るから」
『うん…でも、無理しちゃ、駄目だよ?』

そう言うと母さんは私やこたせんせーに何も言わず頭を下げ都月くんを連れて行った。
母さんたちが帰ったあと、こたせんせーは小さくはあ、とため息をついた。
なんだか私が申し訳ない気分になってしまう。

「とりあえずお前らは自分の部屋に帰れ。濡れてるんだから風邪引かないように気をつけなさい」

こたせんせーがそう言ったので私と錫也先輩は保健室から出た。


『…ごめんなさい、』
「え、」
『見苦しいとこ、見せちゃって』

錫也先輩の居づらさはかなりあったと思う。思うというより間違いない。

『あの、えっと…事情話した方が良いですよ、ね』
「…いや、いいよ。………俺、知ってるし」

あ、そうなんですか。普通に流そうとして固まった。
え、知ってるって。え。え、だって話したのは梓に翼に、こたせんせーだけのはず。
ごめんな、そう眉毛を下げて謝る錫也先輩にどこで聞いたんですか、と問うと保健室と答えてくれた。
保健室?だってあのとき保健室にはこたせんせーしか居なかったはずなのに。

「カーテン、閉まってただろ?」
『あ…』

言われてみれば、そんな気がしなくもない。

「盗み聞きする気はなかったんだけど…、結果的にそうなったから、ごめん」
『あ、いや良いんですよ』

母さんや都月くんのこと気にしてないし、笑ってそう言う。
錫也先輩は何故だか私の方へ歩いてくる。
どうしたのだろうかと首を傾げているとぐいっと腕を掴まれ抱き寄せられた。

「…今にも泣きそうな顔してるくせに、気にしてないなんて嘘つくなよ…。
それに、頬…腫れてる」
『、!』
「強がってるのなんて、バレバレだよ。だったら素直に甘えろよ」

そう言った錫也先輩の抱き締める力が一段と強くなった。
ああ、ああもう。どうしてバレてしまうのだろうか。隠してるつもりなのに。

『っ、ぅ…っ!』
「今まで、辛かっただろ。痛かったろ」

疑問じゃなく断定で。ああやっぱり分かってしまうのだろうか。それとも私が分かりやすいのだろうか。

前はこんなことぐらいじゃ泣かなかった、のに。
私が悪いの、と詰め込んで詰め込んで、一杯で限界なのは分かっているのにまだ大丈夫と、ぎゅうぎゅうに詰め込んだ。


もう、入らないよ
(だってもう、)(破裂寸前)


2012.01.23 修正・加筆
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