一度だけ | ナノ
※オリジナル展開


『!』

頬にぴちゃりと雫が落ちた。
まさかと思って上を仰ぐと更にぱたたっと頬やおでこに雫が落ちる。

「夕立か!?」

誰かが叫ぶと同時に放送が入る。

「全員雨宿りできるとこまで避難!急げ!!」

不知火先輩が即座に放送を入れた。生徒や先生などは校舎やテントの方へ走っていく。

「尚!?どこ行くの!?」

1人で雨の方へ突っ走っていく私に羊先輩が叫ぶ。

『すぐ戻りますから!』

そう叫び返して私は雨のなかを走っていった。


『都月くん!都月くんどこ!?』

どこかで雨宿りしてるといいのだけれど。
私は左右を確認しながら走り回る。

最悪なことに都月くんは携帯を持っていない。

『ああもう…!』
「尚!!」

後ろからパシャパシャッと音がして名前を呼ばれる。
振り返ると錫也先輩が追いかけてきていた。

『錫也、先輩…!なにやってるんですか!』
「一人ででかい敷地の中から人間一人捜すなんて無理に決まってるだろ!!」

馬鹿、と頭に拳骨が落とされる。
どうして分かってしまったのだろうか。私が都月くんを探しているということが。

「この様子じゃ多分体育祭は中止だ、一緒に捜そう」

な?と微笑んで言う錫也先輩に泣きそうになったのは秘密だ。
バレてなければ良いけれど。


『つ、都月くん!』
「あー…尚」

へにゃりと笑いながら建物の陰で雨宿りしていた都月くんを捜し始めてから10分ほどして見つけた。
その髪は微妙に濡れている。

『あーもう…良かったあああ…』
「良かったな、見つかって」
『ほんとですよもう…錫也先輩ありがとうございました』

いえいえ、と笑いながら私の頭を撫でる錫也先輩の手も頭もびしょびしょに濡れている。
当然ながら私の髪や服もだ。

「とりあえずもう少し小雨になるまで雨宿りしておこうか」
『そうですね、そうしましょうか…』


「まずいことになったぞ天音」
『は…、』

小雨になってから保健室にタオルを借りに行くと、琥太郎せんせーにそう告げられた。
その言葉に私も錫也先輩も都月くんも目を丸くする。

「お前の両…すまん間違えた、お前の叔母さんが来てる」

都月を返せっつってな、と眉毛を下げながら私だけに聞こえるようにそう呟く。
返せ、って私がとったんじゃない。むしろ母さん達がとったのに、私から。そんな文句さえ言えない。

「一応応接室に通してる、お前が居て欲しいなら俺も居る」
『っ…、入り口までお願いできますか…』

握った拳の指先は手のひらに食い込むほどだった。



「開けるぞ」
『…はい』

キィッ、と扉が開く前琥太郎せんせーが私の背中をとんっと軽く叩いた。

『お待たせしました、…叔母さん』

カツカツ、ヒールの音が鳴り響いて私の前で止まる。
そして右頬に平手打ちが一発。

「都月をどうして呼んだの!」

呼んでない。そう言ったってこの人は私のことをこれぽっちも信じてくれない。
言ったって無駄だということはこの十数年で学んでいる。

『…ごめんなさい』

頭を70度の角度で曲げる。はあ、とため息が聞こえて自分の顔が歪むのを感じた。
うん、頭をここまで下げたのは正解だった。

「どうして貴方はそうなの!都月に悪い影響ばかりで…恥ずかしいわ」
『っ…』
「我儘もいい加減にしなさい、貴方の我儘はもう都月だって懲りてるの」
『っ………ごめん、なさい』

私は頭を上げて瞬時に方向転換。
扉を開けて応接室から出ると、こたせんせーが眉間に皺を寄せていた。

「………」
『聞こえちゃいました、よね…』
「………ああ。正直、胸くそ悪かった」

こんなにこたせんせーのいらついた顔は初めてみるかもしれない。

「なんで言い返さない?」
『言い返したって、無駄なんですよ…。あの人は私の言葉を聞き入れてはくれないんです』

そう、昔から。
こんな歪な関係
(もう歪むところはないくらいに)(がたがたでひび割れている)


2012.01.23 修正・加筆
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