一度だけ | ナノ
しばらくして保健室に一人で向かった。こたせんせーに説明するためだ。


『えーと、…とりあえずゴメンナサイ』
「あー…事情を知らんかったとはいえすまん。
親御さんはとりあえず帰したけど良いのか」
『ああはい…そりゃどうもご迷惑をおかけしまして…』

ああ気まずい!このうえなく気まずい!
とゆうか何故来たのかさっぱり分かんない。

「じゃあ、親御さんが来ても極力お前には繋がないようにすれば良いか?」
『…お願いします、すいません。とりあえず今はそんな感じで…』
「別に構わない。だけど…逃げてばっかじゃ、何かあった時に手遅れになるからな」

こたせんせーが自嘲気味に笑った。
先生も過去になにかあったのだろうか。
でもそこは踏み込んではいけないような気がして、

『覚えて、おきます。
それじゃ、私は失礼します。
ほんと迷惑かけますけど宜しくお願いします』

頭を下げて保健室を出た。
えー、と次の授業は…なんだっけ?



side Kotaro


ふぅ、とため息を1つ吐いて奥のベッドのカーテンを開ける。
青い顔だ、まったくお前のほうが先輩だろうに。

「ほ、しづきせんせ…」
「なんて顔してるんだよ、お前は。
そんな顔で天音と会ったら怯えられるぞ、東月」
「っ、…すいません」

タイミングの悪いことに体育で頭をぶつけて
軽く脳震盪を起こした東月が保健室のベッドで休んでいた。

場所を移そうにも天音が話し出したので変えるに変えられなくなった。

まだ意識が戻ってないことを願っていたが、
この顔は聞こえていたようだ。もう一度言わせてもらう、タイミングが悪すぎだバカ。

「尚が、…そんなの抱えてるなんて知りませんでした」
「だろうな。木ノ瀬と天羽には言ったらしいし」

なにかしら返事だか相槌だかが返ってくると思っていたのに
東月からなにもリアクションが返ってこない。

首を傾げて下に向けていた目線を東月に合わせる、と

「…」
「………」
「…には、……もいわ……の、か…」

…なんだその台詞は。
小さな小さな声で呟いた声はギリギリ聞こえていた。
なんだかな。まるで嫉妬している彼氏のような台詞だ。

………え。

「おい、とう…」
「すいません、俺教室戻ります」

呼び止めようとしたら、速さで振り切られた。

「………なるほどな、」


―――俺には、何も言わないの、か。

まったく、…見てるこっちが恥ずかしいわ。



side Suzuya

体育で哉太が蹴りあげたサッカーボールを遠くに吹っ飛ばした。

ため息をつきながらボールが飛んでいった方へ走る、と
木の根本で小さく丸まっている身体を見つけた。

「尚…?」

月子より小さい体がさらに小さく感じた。

…泣いて、る?

なんて、声をかければ良いのか分からなかった。

幸いなことに尚は俯いていて俺のことに気付いていない。

固まっていると、天羽くんの声が聞こえた。
俺は踵を翻して、哉太たちのもとに戻った。

哉太たちには遅いと怒られ、ボールが背中にぶち当たり
よろけてサッカーのゴールポストに頭を打ち付けた。


目が覚めたら保健室の天井だった。
いまだに後頭部が痛む。

…あー、俺の、ばか…。

なにに一体動揺してんだか、俺らしくない。

『ただの言い訳になっちゃうんですけど、聞いて貰って良いですか』
「そりゃ構わないが…」

星月先生の声が若干焦っている気がするのはきっと俺が居るから。
なにやら大事そうな話が始まりそうな雰囲気である。

え、ちょ。
尚は(当然だが)俺には気付いていないだろう。
どんどん話を進めていく。

俺はそれを呆然と聞いていることしか出来なかった。
君の一番脆い場所
(聞いていたと知ったら君は俺のことをどう思うだろうか)


2012.01.23 修正・加筆
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