一度だけ | ナノ


『兄さんしか居なかったから、完璧に独りぼっち。
そうゆうことがあったから家にも簡単に帰りたくないし、親にも出来るだけ会いたくない』

背中を丸めて膝を抱える。
だって、兄さんが倒れたのは私のせい。兄さんが私を忘れたのは自業自得。

背中になにか乗った。
それは温度を伴っていて。

「………独りが怖いのは、俺も知ってる」
『つ、ばさ…?』

上からは翼の声がした。ということは、上にのしかかっているのは翼で。

「でも俺には梓や、ぬいぬい達が居たから」

そうだね。
私は翼と同じじゃなかった、私には誰も居なかったの。

梓みたいなのや、一樹会長たちみたいなのは。
兄さんが全てだったんだよ。

「でも、今は俺が居るよ」
『っ…』
「翼だけじゃなくて、僕だって居るよ」

梓の声が近くに聞こえた。
どうやら思ったより近くに居たらしい。

「夜久先輩たちだって居るし、部長や宮地先輩も。先生たちだって居る。生徒会の人たちも」

だからもう独りじゃない。
梓は最後にそう付け足して。

「でも今なら僕ら二人しか居ないよ。だから」

一旦言葉を止めて、頭に手を乗せられた。

「泣いても良いよ」「泣いても良いんだぞ」

なんで、二人ともおんなじ言葉をくれるんだろうね。従兄弟だからかな。
揃った泣いても良いの声は更に涙腺を緩ませた。

『っ…、ふ…っ』
「…バカなんだ。尚は」
「…今なら、聞いてないフリしてあげる」

だから存分に泣け、だなんて命令口調で言わなくったって。

『…二人とも。ありがと、ね』
「こっちこそ、喋りづらい話をどうもありがとう」
「…尚、よしよしなのだっ」

わしゃーっ、と翼が髪の毛をかき乱す。

『わ、ってちょっ…それはよしよしとはいわないっ!』
「元気出たみたいじゃん。よし、もっとやれ翼」
「ぬいぬいさーっ」
『煽るな梓ああああ!!』

ああ、でもホント二人に明かして良かったのかもしれない。
一人だったら、ただ嘆くだけだったんだから。

もう独りじゃ、ない
(暗い尚とか、キモチワルイ)(あれ何だろう。沸々と怒りが)


2012.01.23 修正・加筆
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