『私ね、結構良いとこの家の娘なの』
「…そうなのか?」
『意外でしょー。元からこんなんだから両親から疎まれててさ』
こんなとっても偉くて良いお家なのにあんな…慎みのない娘恥ずかしい。
私の居ないところでそう言われていたのを聞いたことだってある。
でも小さいなりに親の期待に応えようとした時期だってあった。無駄だったけど。
『でもね、家のなかでたった1人。…兄さんだけ私を構ってくれたの。何でもできて両親にも気に入られてた兄さんが』
その存在は絶大で、兄さんの後ろをなにかとついて回った。
『星が好きなのも兄さんが好きだからだし、
…梓は、私が弓道やってたの知ってるでしょ?』
梓の方へ顔を向けるとこくりと頷いた。
『弓道も兄さんがやってたからやり始めたの。
まあ、…兄さん体が弱かったから途中で断念しちゃったんだけど』
それでも弓道を続けていたのは私も弓道を好きになったから。
兄さんが辞めたあとも続けていた私に兄さんは、嬉しい。俺の分も楽しんでな。
頭に手を乗せて微笑んだ。
なのに、
『15のときかなあ…。
母さんが「弓道をやめなさい」って』
いい加減弓道なんてやめてなさい。
そんなことやるなら華道や茶道を学びなさい。
弓道、"なんて"。"そんな"こと。
お前は弓道のなにだって、言われたっていい。
あなたが弓道の価値を決めるな。どうして、私と兄の好きなものを馬鹿にするの。
『ついカッとなっちゃって、』
―――私はあなたの人形じゃない!!
叫んでリビングを飛び出した。玄関で、兄さんに会った。
―――尚、
やめてよ、そんな憐れむような目で見ないで。
ちゃんと考えればそんな目をしてなかったと分かったのに。
―――私、生まれなきゃ良かったね
―――尚…ッ!?
ただの八つ当たり。
なんでも出来て、両親にも好かれている兄さんを僻んだ。
そのまま家を飛び出した。
『そしたら兄さん追いかけてきたらしいの。
でも体が弱いからさ、すぐ倒れちゃったの』
ぶらぶら歩いてたらポケットの電話が振動した。
急いで駆けつけた病院の個室に居た兄さんは既に起きていた。
兄さんっ、叫びながら駆け寄った私に兄さんは、
『「誰?きみ」って』
他の人のことは覚えていたのに、私のことだけ兄さんの記憶から抜け落ちた。
『もうそんな状況ならさ、好かれてなかったんだなって思うしかないじゃん』
「そんなこと、っ」
『ないって言い切れない。少なくとも最後にあんなこと言っちゃったんだよ、』
なんであんなこと。
後悔はいまも消えない。
タイムマシンがあったならと
(どれほど切に願ったことか、)
2012.01.23 修正・加筆