一度だけ | ナノ
Side Azusa


「ぬははー!俺、尚の隣ー!!」
『げっマジですか梓ヘルプミー!』

今日は共通科目が被り尚と一緒の授業らしい。
当然のように翼が尚の隣に座った。そして僕に助けを求められる。

「なんで尚の隣に座らなきゃいけないんだよ」
『なんだよ嫌か!』

嫌だよ五月蝿そうだし、と返すと
否めないとドヤ顔で返された。認めるなよ。

『梓お願い!せめて隣に!』
「…なんで?」
『だって翼と梓頭良いしさー、教えて!』

最初から他力本願…。
そう思いながらも溜め息をつきながら尚の隣に座った。

座ったと同時に先生が教室に入ってきた。



ガラッと後ろの扉がいきなり開いた。生徒の視線が集まる。
入ってきたのは星月先生で、

「あー…授業中に悪い」

気だるそうにそう言った。

「天音、ちょっといいか」

名指しされた尚は自分が呼ばれると思ってなかったのか目を丸くした。

『わたし?』
「お前だ。ちょっと来い」

呼ばれた尚は首を傾げながら星月先生に小走りで寄った。

「じゃあ進めるぞー」

先生が黒板に向かって字を書き出した。
カッカッとチョークが黒板に字を書く音が響く。
先生が解説しようと振り向いた、とき

『…っいや!!』
「おい天音!!」

尚の叫び声が教室を一気に騒がしくさせた。
なにがあったんだ、と。隣の翼を見るとワケが分からないといった風だ。

またがらりと扉を開けたのは星月先生で、今度は僕と翼が呼ばれた。

「どうしたんですか」
「いや、俺もちょっとよく分からん。親が会いに来たと言ったらいきなり逃げられた」
「会いたくないんですかね、」
「そういうことだろう。悪いががあと頼んでいいか。俺は親に説明してくる」
「大丈夫です、翼行くよ!」
「ぬいぬいさ!」

授業を抜けたことは後で星月先生が担当の教師に言ってくれるだろう。
僕は気にせず翼を引き連れて#ame1#の向かった方へ走った。


「ぬっ!居たぞ!!」

探し初めて30分。
(今日ほど学園が広すぎるのを恨んだことはない)

やっと見つけた尚は木の下に膝を抱えて背中を丸めていた。
翼の声が聞こえたのか尚の肩がびくりと跳ねた、気がした。

「尚」
「尚…、大丈夫か?」
『梓…翼…』

顔をあげた尚。
その顔は笑いたいんだか泣きたいんだか。どっちかにしろよ。

「謝るくらいなら星月先生から逃げた理由を聞きたいよ。僕は」

そう言いながら尚の隣に座る。翼は反対の隣に座った。

『ん………母さんに会いたくなかった』
「なんで?」
『まあ、色々あって…』
「なにがあったんだ?」

翼が単直に聞く。やっぱり気になるよなあ。
少し間があって、尚はまた顔を埋めて体育座りの格好をとった。


ぽつりと、呟くように

『大切な人に、自分のこと忘れられたことある?』
と言った。


見つけて欲しくなどなかった
(君に忘れられた過去なんて)


2012.01.22 修正・加筆
title by約30の嘘
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -