一度だけ | ナノ
とまあ、入学式にていきなり夜久先輩からお友達になってくれませんか宣言されて早1週間。
がっつり月子先輩のメルアド+電話番号まで教えていただきました。

そしてクラスの中でジャンケンで負けてちびっこクラス委員長という位置付けが定着してきた。
名づけ親はとりあえず一発殴っておいた。148cm言うな。

「いーいんちょー!課題忘れてきた!スマン!」
『いいけど…、明日忘れてきたら君のその自慢のキューティクルの髪の毛抜くからね!!』
「いい笑顔でそれ言うのやめろ!!!そして俺はキューティクル命なんだああ!!」
『いや…キューティクルの維持じゃなくて成績向上させようよ』

図星だったのかキューティクル君はいそいそと自分の席に帰っていった。おとといきやがれ!!

「尚、今日も絶好調だね」
『…梓、見てたの?』

扉のところに梓が居た。
翼は最近見ない。何でも生徒会で忙しいんだとか。しかし研究費に釣られたのは知っている。
まあでも毎日の様にメールが来ているからなあ…。
"ぬ"が多いけど。

「見てたけど?そういえば尚って弓道やってたんだってね?」

確かに中学時代にやっていた。が、しかし梓に話した覚えは一切ない。
どっから仕入れてきやがった。ストーカーだ!
そう心のなかで思っただけなのに梓のデコピンを一発食らった。

「陽日先生が言ってたよ?」
『ちっくしょ、あのちびっこ先生め!』

職員室では生徒の情報は筒抜けだ。頼むからやめて欲しい。

「尚も充分小さいけど、」
『梓もたいしてでかくないよね』
「(無視)弓道部の部長と副部長が連れて来いってさ」
『今日はつっこ先輩に会ってくる!!』
「夜久先輩も弓道居るから好都合だね」

そういえば、月子先輩って、弓道部だ。
自分で墓穴を掘ってしまい反対の扉から教室を出ようとしたら梓がもう回りこんでいた。

「おっと、逃がさない」
『ちょっと待ってよ!あたし部活に入部するつもりないんだけど!』
「まあ見学でもしていけば?」

そう言って腕を首に巻き、ずるずると引っ張っていく梓。向かう方向は勿論弓道場。

『ちょっ、あーずーさー!!』
「ほら、ぐだぐだ言っても仕方ないんだから」


「で、こいつか」
『………梓、梓。誰?』
「宮地先輩。弓道部の鬼の副部長だよ」

鬼の副部長に目をやると何か余計な事言ってないだろうな木ノ瀬、と梓に睨みを効かせている。
ナルホド、鬼の副部長だ。眉間にはがっつり皺。

「まぁまぁ、二人とも。初めまして天音さん。弓道部の部長の金久保誉です」

にこっ、と笑った部長さんは人当たりの良さそうな3年生で。

「中学のとき弓道やってたの?」
『あ、はい』

梓に連れて行かれ制服でやるわけにはいかないので体操服に着替えた。
更衣室から逃げたろうかとか思ったけど梓が扉の前に居たので諦めた。

きゅっ、と肩にかかる程度の髪を束ねる。

『すいません、それじゃあお借りします』

弓道場にあった弓と矢をお借りし、的の前に立つ。
後ろには部長さん、副部長さん、それと梓が見ている中で弓を引っ張った。


パシュッ、と矢が風をきる音が聞こえてパスッという音が少し遠くで聞こえた。
目をこらすと、矢はがっつり的の前の地面にさくっと。

『あー…、外れた』
「もう一本やってもらっていいかな」

部長さんがそう言った。もう一本やっても変わんないと思うけどなあ。
口には出さずにまたさっきの様に弓を構えた。

また弓は同じ軌道をえがいてまた地面にささった。

『…あの、もういいですか。多分当たんないと思います。やっぱりもう2年も離れてましたし。
それに…放課後とか色々することあるんで部活とか無理なんですよね』
「…そっか、わざわざありがとう」
『いえ、それじゃあ私は』

借りた弓を返して弓道場を去った。


「部長、尚ワザと外してますよね」
「…うん、多分そうだろうね」
「…そんな事してまで入りたくないのか?」

三人して尚が去った扉を眺めた。
もちろん、扉を見たところで戻ってくるわけでもないが。

「…さあ、よく分かりませんけど」
「…気にしても仕方ない。練習を再開しましょう、部長」

宮地の一言に三人が散った。


『…あーもうっ』

わしわしと自分の頭を掻く。朝から一応綺麗に整えてきた髪形は見事に崩れた。
ネガティブ禁止!!自分にネガは似合わないし気持ち悪い!

ぺしんっ、と頬を両手で叩く。

よし、大丈夫!
(尚ちゃん?何してるの?)(うえ…月子、先輩…見てました?)(え、あ、うん)(わあ恥ずかしい)


2012.01.21 修正・加筆
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