月とスピカ | ナノ






>>act.05

『うまー』

口のなかにいれた卵焼きは甘い味付け。僕の好み。

『錫也料理上手いね』
「ありがとう」

にこりと笑いながらお茶をコップに注ぐ姿はなんていうかお婆ちゃん。
でも本人が気にしてたら悪いから言わなかった。


『御馳走様でした』

両手を合わせてぺこりと頭を下げる。

「お粗末さまでした」

そう言いながら弁当箱(という名の重箱)を片付ける姿は
さっきも言ったけどお婆ちゃん。良いとこお母さん。

羊に哉太に月子は少し離れたところでわいわいきゃあきゃあ騒いでいる。
最近の若い人は元気だね。

『ふぁ…』

腹が膨れると瞼が落ちてくるのは自然の摂理だよね。
僕は惰眠を貪るのが座右の銘だし。

『錫也、僕寝るねー…』

錫也にそう告げて結構勢いよくシートの上に寝転んだら、

『い、った!』

丁度寝転んだ頭のポイントに石があった。
地味に痛い。
反射で起き上がって痛みの部分を押さえる。

「あ、ここ石が結構あるから危ないぞ」
『…最初に言って欲しかったよ、錫也』

悪い悪い、と笑いながら謝ってくる。
僕の心は広いから怒ったりしないけど。

「俺の膝に頭乗せても良いぞー」
『え?重いから良いよ』
「じゃあ肩貸してあげるよ」

その申し出も断ろうとしたら、爽やかな笑顔でがっと僕の頭を自分の方へ倒した。

『ぅ、わっ』

ぽすん、と僕の頭が収まったのは錫也の肩の上。

『…錫也って、案外強引なんだね』

そりゃどうも、とか誉めてない誉めてないから。
あーでも、ここ良い感じに木陰で涼しいし錫也の肩の上はよく眠れそうだし。

「おやすみ、透」
『…おやすみ』

錫也の言葉を聴いて、瞼を閉じると眠りは直ぐに襲ってきて、
久しぶりに深い眠りとなった。



side Suzuya

俺の真横で眠りについた透。

首を回すと横にはすぐに透の顔。
その顔は、驚くぐらいトオルにそっくりだ。

今何処に居るんだろうな。
居場所を知る術はない。だから今でも苦しんでる。


なんであのとき手を掴まなかったんだ。
なんで行かないでと我が儘にならなかったんだ。
なんで好きだと気持ちを叫ばなかったんだ。


後悔先に立たず、とはまさにこのこと。

眠っているのを良いことに頬を指先で撫でる。


なんで此処に居るのがトオルじゃないんだろう。
お前がトオルだったら良いのに。

なんて考える俺は相当酷い奴だ。
でも、考えずにはいられない。

だって、俺はトオルが好きだったから。




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