月とスピカ | ナノ






>>act.06

最っ…悪だ。

僕は息を整えつつ物陰に隠れてそう思った。
錫也のお陰か、久しぶりにぐっすり眠れて上機嫌だったというのに。

なんであんなしつこい人に追われなきゃいけないんだ。僕は運動が嫌いなのに。


ことの始まりは30分ほど前に遡る。



教室で月子たちと喋っていると、天文科の教室の扉がスパーン!と開いた。

扉が壊れたんじゃないかというような勢いだった。
当然、天文科の生徒の視線はそちらに注目する。勿論、僕らも。

開いた扉のところに立っていたのは

「笠原透は居るか!!」

銀髪、碧眼の男子生徒だった。
思わず、振り返る。

『………、なにあの人。哉太の兄ちゃん?』

そう思うほど哉太にそっくりだったのだ。

「違ぇよ!…不知火先輩こいつッス!」

哉太がいまだに扉の前にいる先輩(のようだ)に声をかけた。
しらぬい、と呼ばれた先輩がこっちにやってくる。

「お前が笠原透か?」
『はあ、まあ…』

ふーん…、と呟きながら僕を上から下からじろじろ品定めするように眺める。

なにこれ、居心地悪すぎる。先輩だからって無礼過ぎる。
眉間にシワを寄せていたら、先輩がよしっ、とぽんっと手を置いた。

「お前生徒会入れ!」

勝ち気というか強気な笑顔で僕にそう言う。

『………丁重にお断りさせて頂きます』
「なんでだ、」
『僕そーいうの向いてないんで』

ガタッ、と席を立ち隣にかけておいた鞄を手に取る。
ぶっちゃけこーゆうタイプは苦手だ。

「透くん、どこ行くの?」
『ん?探検でもしてこようかと思って』
「一人で大丈夫か?」
『一人で行かないと探検じゃないよ』

心配そうに見上げた月子と錫也に笑って答えてみせた。

『それじゃ、また明日』

4人に手を振り、しらぬい先輩の横をするりと抜けて教室から出た。



『…で、なんで貴方が居るんですか』
「探検なんだろ、一緒に行ってやろうかと思って」

イライライライラ。
隣で普通に肩を並べて歩いている不知火先輩(勝手に名前を教えてきた)。

先輩じゃなかったらぶん殴ってやったのに。


思わず早足になるが、リーチの差が憎たらしい。不知火先輩はすぐ追いついてくる。
今の僕の気持ちを言葉で表すなら、うざったいだ。(うざいではなく)

『…なに言われたって僕は入りませんよ』
「どうしてそんなに頑なに断るんだ」
『だからそーいうの向いてないんです』

さっきから堂々巡りなこの会話。いい加減逃げたい。
その気持ちから、

『…それじゃあ、先輩さようなら』

ひらりと2階の窓から飛び降りた。
だって仕方ない、不知火先輩がうざすぎる。

運動は嫌いだけれど、運動神経が悪いわけじゃない。

すたん、と地面に足をつけた。我ながら十点満点の着地に思わず笑みがこぼれ上を見上げる、と

顔に影がかかった。

『は!?』

不知火先輩が僕が飛び降りた窓から同じように飛んできた。
たったの10p。着地点を見誤ったらどうするつもりだったんだろう。

「オイコラ…危ないだろーが!!」

貴方がそれを言いますか、と突っ込もうかと思ったが
とりあえずなにより、―――逃げるべし。

僕は不知火先輩と逆の方向に駆け出した。



で、今に至るわけだ。

まったく、ほんとにしつこいな…。
さっさと寮に帰った方が得策かー…。


不知火先輩に見つからないようにして僕は寮に戻った。




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