プリズムガーデン | ナノ

04
弓道場に行く間に互いに自己紹介をしておいた。
よく笑う先輩は東月錫也という名前らしい。

「天文科の3年だよ。よろしくな」
『えーっと…錫也先輩?』

遠慮がちにそう呼ぶ。
そうすると錫也先輩はくすぐったそうに笑った。

「なんかここで初めて出来た後輩だから恥ずかしいな」
『そんなこと言ったら私の初めての先輩は錫也先輩ですよ!』
「うん、そうだな」

ありがとう、と言われて何がありがとうなのかよく分からない私は首を傾げる。

「俺の後輩一号だから。な、薙弦ちゃん」
『お手柔らかにお願いしますね、錫也先輩!』

そんなことを笑い合い私たちは弓道場の前に着いた。

「ここが弓道場。場所は覚えられそう?」
『う…頑張ります…』

決意を口にした私に錫也先輩はからからと笑った。
そしてそんな笑顔のまま弓道場の扉を開いた。


「月子ー」

錫也先輩が声をかけると同時に、トンっと矢が綺麗な弧を描いて的のど真ん中に刺さる。

振り向いた彼女。
的前に立っていたあの真剣な表情から一変して無邪気な、そんな顔でこちらを見た。

「すず…って、矢来薙弦ちゃん!!」
『へ、あ…』

バッチリとフルネームを当てられ返事ができなかった私。
そんな私の隣で錫也先輩がチェック済みかあと笑いながら呟いた。

「な、ななんで!?なんで錫也が矢来さんと一緒なの!?」
「それは薙弦ちゃんが俺の後輩一号だからです」

な、と振ってくる錫也先輩に私はこくこくと頷くしかできない。

「ずるい…!私だって仲良くなりたいのに…!」
『わた、私も仲良くしたいです…!』

自分の意思を口にすると先輩が目を輝かせてほんと!?と問いかけてくる。

「私、夜久月子!天文科の3年だよ」
『あ、あの矢来薙弦です、星座科に入りました!仲良くして下さい!つ、月子先輩!』
「っ…か、かわいい…っ!!」

どうしよう錫也可愛いよ、と錫也先輩に力説しているが私より月子先輩の方が可愛いのは一目瞭然のことだ。

「女子二人なんて大変だけど一緒に頑張ろうね!」
『はい!』

ああいい人だ。誰が見ても好印象しか与えない笑顔で私にそう言う月子先輩。

「そうだ月子。差し入れ持って来たんだ、冷めたいうちに薙弦ちゃんも一緒に食べよう」
「あっそうだね!薙弦ちゃんも一緒に食べようよ!」
『ありがとうございます!』

入学早々に良い先輩に巡り合えた私は最高に運が良すぎる。


2012.06.09 修正・加筆

bkm


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