プリズムガーデン | ナノ
01何故かいつも試合の日にはあれだけ「応援に来い」だの「見に来い」だの言う二人が今日のインハイだけは何も言わずに家を出ていった。
私は今日も誘われるんだろうなあ、なんて思っていたので今日の予定はいれずに準備もばっちりだった。
なんだか拍子抜けだ。
まあ今日は誘われなかったけど観には行きたかったので兄たちが水に浸けておいた食器を洗って私は家を出た。
「薙弦…!?」
私を発見したいづ兄が珍しく焦っている。
その顔はなんでここに、とでも言いたげだ。
『そんなに驚くこと?』
「なんで来たんだ…!」
私の問いかけには答えず頭を抱えているいづ兄。
隣で藍くんと真琴ちゃんが首を傾げていた。
「どうしたのあんたの兄貴」
『いや私に言われても…』
正直どうしてここまで嘆かれているのかがさっぱり分からない。なぜこんなことに。
何かしたかな私。いづ兄のプリン食べたっけ?いやそういえば私のババロアが冷蔵庫からなくなって…。
(頭の中で)話が逸れてきたのにストップをかけたのはゆづ兄こと、陸海学園弓道部の部長であり矢来兄弟の上の兄。
「薙弦!?」
『…ゆづ兄までそんな顔して、今日何かあるの?』
私は会場のほうへ顔を向けると項垂れていたいづ兄が驚きの早さで私の前に立ちはだかった。そして私の肩をがっと両手で掴む。
『え!?なんで!?』
「薙弦は今すぐ帰って」
なんでだ。私が体を右に動かすといづ兄も右へ。左に動かすといづ兄も左へ。
『やだ!帰らないよ!』
「お前は今すぐ帰れ。即刻帰れ」
ゆづ兄も加勢して私の前に聳える壁は更に高くなったような気分だ。
『……分かった、帰る』
俯いた私は体の向きを変え、客席の間にある階段を昇る。
なんだいなんだいちくしょう!せっかく応援に来たっていうのにこの扱いは!
そんな憤った私の考えにストップをかけたのは体に衝撃がかかったからだ。
どんっと肩がぶつかり下を向いていた私の体は階段の下へ、
あ落ちる。そう考えた私の予想は思い切り覆された。
「…、大丈夫?」
『!?』
こ、の声は。まさか、もしや。
抱き留められことが分かり、顔を上に向けると。
兄たちに阻まれ一年以上も見ることが叶わなかったアメジスト。
切り揃えられた前髪は中学のときとは違うけれどそれでも。
『あ、ずさくん…?』
「え?あ…薙弦?」
覚えていてくれた。
そのことが私の思考だとか理性をどこかに吹っ飛ばした。
『あ、梓くんだ梓くんだ…!!』
「…相変わらずみたいだね」
感極まって私は梓くんに思わず抱き着いた。
『梓くん会いたかった!』
「僕はあんまり会いたくなかった」
『辛辣なとこも好きだよ梓くん!』
離せ、と梓くんにおでこを押され引っぺがされそうになるけど私は根性で抱き着いたままだ。
梓くんは諦めたのかはあと頭上でため息を一つついた。
『私の執着心をなめちゃいけませんよ!』
「もういいよ…。ていうか後ろ。見てみなよ」
梓くんが私の後ろを指で指す。
そこには眦吊り上げて怒る兄二人が居た。あ。
bkm