200000 | ナノ
焼き付ける
『宮地部長ー』
「え、っ…あ」

キリキリと張っていた糸は茶化すような声に容易に緩んでしまった。
矢が的外れな位置に刺さる。

「みょうじ先輩」
『やっほ久しぶり』

そう言う先輩は弓道着じゃなくこの学園に2つしかない女子制服に身を包んでいた。
今更ながらああ彼女は引退したんだな、なんて思った。

『どう?部長の方は』

はいどうぞ、差し出したのはプリン(生クリーム増量)。
丁度休憩するか、なんて考えていたので有り難く頂いてみょうじ先輩の前に座った。

「む、どうと言われても…」
『分かんない?』
「…自分にとっての部長はやはり金久保ぶ…先輩なので」

そりゃそうだね、けらけら笑ながら自分のぶんであろう杏仁豆腐のパッケージを開けた。

『でも誉みたいにやる必要はないよ』
「…分かってはいるんですが、金久保先輩だったらこうするんだろうなとか思ってしまうんです」
『…あのねーまず宮地と誉はそもそもな考え方から違うんだがらね』

誉みたいにしようとしたって絶対無理だから、ぴっとプラスチックのスプーンで俺を指す。

『良いじゃないうまく出来なくても』
「え」
『うちの部には可愛い可愛い月子が居るし、器用な犬飼、ムードメーカな白鳥に頑張り屋な小熊くん、それに天才な梓だよ。いやーこうしてみると中々濃いメンバーだよね』
「えっと、あの」

みょうじ先輩の言いたいことがイマイチ分からず困惑した声が出る。

『もし宮地がしくっても他がなんとかしてくれるって』
「む、そんな他力本願では」
『他力本願じゃない。頼るって言うの』

頼る。もしかして自分は頼れてなかったのだろうか。

『全部自分でしなくたって良いでしょが。なんのために副部長が居ると思ってんの』
「…」
『うちの部長はなんで歴代頼れない奴かなー』

去年の副部長はみょうじ先輩だった。ああじゃあ金久保部長もうまく出来なかったのだろうか。

『まあ宮地はダントツだけど』
「…」
『まあ頑張って。私と誉も会えないわけじゃないんだからさ、気軽に言ってきてよ』

ぽんぽんとまるで子供扱いするように俺の頭を軽く叩く。

『宮地が創る一年楽しみにしてるね』
「…はい」

じゃ、そう言って弓道場を出ていく背中をずっと見ていた。
貴方の背中を焼き付ける


◎宮地龍之介
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