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手に入れる


ふわふわに巻いた髪、まつげもちゃんと上を向いて頬には緩めのピンクのチーク。
月子には負けるけど其処いらの女子と比べると私は可愛いはず。…うん、多分。


『おはよーございます』
「ああ、おはよう。なまえちゃん」

天文科二年に秋から教育実習生として入った水嶋郁先生。
そんで私の彼氏だ。もちろん教育実習生と言っても教師と生徒なので周りには秘密だが。

「なまえちゃんおはよう!」
『あ、月子おはよー』
「月子ちゃんおはよう、今日も可愛いね」

って、おい。郁くんまず月子は郁くんには挨拶してないし、なんだ可愛いって!私には言わなかったくせに!

『い、郁くん…?』

顔を引き攣りながら小さな声で呼ぶ。

「ん?なあに?」

にこりと最上級の人の悪そうな笑顔を浮かべた郁くん。
あ、こいつ絶対分かっててやってやがる。

『…もういいですもん!』

ばーか!心の中でそう付け加えて自分の席へ向かった。
むかつくむかつくあのもじゃもじゃほんとむかつく…!
机の上に突っ伏していると隣の席の椅子ががたりと引かれた。

「おはよう、なまえ」
『錫也…、おはよう…』

私は首だけそちらに向けて挨拶を返す。
錫也は「どうした?元気ないな」と眉を下げて心配してくれた。

『錫也が彼氏だったらいいのに…』

そしたらこんなからかって遊ばれることもないし頑張ったのに可愛いなんて言われないこともなさそうだ。
あ、思い出したら涙出そう。

「冗談でもそれは頂けないね、なまえ」
「え、水嶋先生…?」
「ちょっとおいで」

強引に手を掴まれて引っ張られる。もう朝礼前なのに皆からはじろじろ見られてるし、教室を出るときすれちがった直ちゃんには「変なことすんなよー」と言われるし一体なんだっていうの。


連れていかれたのは空き教室だった。
そこに押し込まれて、壁に追い詰められる。

『な、なに』
「なにじゃないでしょ、ヤキモチ妬かせたかったの?」
『別に、ちがう。郁くんだってそうじゃん。月子にばっかり可愛いって言って、私には、』

あ、どうしよう。凄く泣きそう。現に視界が滲んできた。

「…あのさあ、可愛いけどそれ学校にしてくる必要ある?」
『…郁くんが居るの学校じゃない』
「うん、だけど僕以外の男に見られるじゃない」

我慢ならないんだよね、真っ直ぐ見つめられて息が詰まる。

「で、月子ちゃんに関してはさ。彼女がヤキモチ妬いてるのって凄く可愛いんだよね。だからそれを見たいと思うのは仕方なくない?」

好きな子は虐めたいってよく言うでしょ?
首を傾げて私に顔を近付ける。その青い目に見つめられて私は顔を逸らした。

『趣味わるい…』
「…そんな趣味悪い彼氏がだーいすきなのはだーれ?」

そう言われて言葉に詰まった。
くそう…。ああ言えばこう言う…。

「だから言わなくても分かってよ」

そういて頬にちゅっとキスされたら結局私は負けてしまうのだ。

手にいれたのはきみの全部


◎水嶋郁/あいりさん
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