二年の宇宙科の前を通りかかろうとしたときに教室のなかから梓くんの声が聞こえた。
あ、今日は居るんだ…なんて思っていたら「木ノ瀬はなんでみょうじと付き合ってんの?」ってうわもう確信を突くようなとこをまたタイミング最悪だ。
「え、なんでそんなこと聞くのさ」
「やーみょうじと夜久先輩だったら夜久先輩じゃね?」
「だよなあ」
『…』
いやうん私もそう思うよ悲しいことに「まあね」…って、今の声、梓くんだよ、ね?
足が動かない、息もできない。ああもういっそのこと死んでしまえれば良いのに。
きっと呆然としていた。だから私の横にあった扉が開いたのに音が鳴ってから気付いた。
「っ、木ノ瀬!」
焦ったような、そんな声が聞こえて梓くんの「なに?」という声が聞こえて。
そうしてまた焦った声で私の名前が呼ばれた。
「今の、聞いてた?」
誤魔化した方が良い?それとも、素直に言った方が良い?
ねえ、分かんないよ梓くん。
『…なに、が?』
「っ…」
一瞬の空白で梓くんは理解したようで、ああもう誤魔化せない私は理解して来た道を逆走した。
後ろから梓くんが私を呼ぶがそんなの知らない聞こえない。
ねえ、好きだと言ってくれたあの声は姿は言葉は全部嘘だった?
「なまえ!」
伊達に宇宙科じゃない。梓くんは息一つ切らさず私に追い付いた。
手が掴まれたらもう逃げられない。ぼろぼろとした涙はもう残された手で隠すしかない。
「ごめん、違うんだ」
『なにが、ちがうの…?梓くんだって、月子先輩が、良いんでしょ?』
良いんだよ別れても、…違うよ良くないよでもだって。
『わたし、大丈夫だから…だから良いよ…梓くん居なくても、だいじょうぶだから』
私はいつまでも反対の言葉を言い続ける。
それでもやっぱり涙は止まってはくれないけど。
「居なくても大丈夫なんて、言わないで」
頼むから、そう囁く声が脳に広がる。
ぎゅうと包まれた体温は確かに梓くんのもので、どうして抱き締めるのやめてよ。
「違う、違うんだ…!最初は確かになまえを利用しようとしたんだ。月子先輩に恋人ができたのが悔しくて、だから…それはごめん」
『っ…』
「騙してたんだよ、だから後で気の済むまで殴って良いから。でも今から喋るのは本当に正真正銘の僕だ、だからそれだけは聞いて欲しいんだ」
嫌なら良いよ、そんなこと言いながら抱き締める力を強めたんだからずるい。私は梓くんの背中に腕を回した。
「なまえが好きだよ、ほんとに。からかったら真っ赤になったり表情がくるくる変わったりつられて僕も楽しくなるんだ、そんななまえが好きだよ」
『ぅ、え…っ』
ほんとだよ、念押しのようにそう言う梓くん。
私は私できっと涙でぐちゃぐちゃの顔なんだろう。
『ば、かあ…!』
「うん、馬鹿なんだよ僕。なまえ馬鹿なんだ」
なんで楽しそうなの梓くん。私はちらりとそう思ったが今は涙と嗚咽の方が先らしい。うええっと情けない声があがる。
「ごめんね、でも好きだよ。なまえは?」
『ば、か聞かないでも分かってよ…!』
「だって聞きたいじゃん?」
さっきのしおらしい梓くんは一体どこへ。すっかり勝ち気な瞳に変わってしまったアメジストに見つめられたらもう私の負けは確定だ。
騙されたら負けなんですよ。
◎木ノ瀬梓/さとゆうさん
あ、今日は居るんだ…なんて思っていたら「木ノ瀬はなんでみょうじと付き合ってんの?」ってうわもう確信を突くようなとこをまたタイミング最悪だ。
「え、なんでそんなこと聞くのさ」
「やーみょうじと夜久先輩だったら夜久先輩じゃね?」
「だよなあ」
『…』
いやうん私もそう思うよ悲しいことに「まあね」…って、今の声、梓くんだよ、ね?
足が動かない、息もできない。ああもういっそのこと死んでしまえれば良いのに。
きっと呆然としていた。だから私の横にあった扉が開いたのに音が鳴ってから気付いた。
「っ、木ノ瀬!」
焦ったような、そんな声が聞こえて梓くんの「なに?」という声が聞こえて。
そうしてまた焦った声で私の名前が呼ばれた。
「今の、聞いてた?」
誤魔化した方が良い?それとも、素直に言った方が良い?
ねえ、分かんないよ梓くん。
『…なに、が?』
「っ…」
一瞬の空白で梓くんは理解したようで、ああもう誤魔化せない私は理解して来た道を逆走した。
後ろから梓くんが私を呼ぶがそんなの知らない聞こえない。
ねえ、好きだと言ってくれたあの声は姿は言葉は全部嘘だった?
「なまえ!」
伊達に宇宙科じゃない。梓くんは息一つ切らさず私に追い付いた。
手が掴まれたらもう逃げられない。ぼろぼろとした涙はもう残された手で隠すしかない。
「ごめん、違うんだ」
『なにが、ちがうの…?梓くんだって、月子先輩が、良いんでしょ?』
良いんだよ別れても、…違うよ良くないよでもだって。
『わたし、大丈夫だから…だから良いよ…梓くん居なくても、だいじょうぶだから』
私はいつまでも反対の言葉を言い続ける。
それでもやっぱり涙は止まってはくれないけど。
「居なくても大丈夫なんて、言わないで」
頼むから、そう囁く声が脳に広がる。
ぎゅうと包まれた体温は確かに梓くんのもので、どうして抱き締めるのやめてよ。
「違う、違うんだ…!最初は確かになまえを利用しようとしたんだ。月子先輩に恋人ができたのが悔しくて、だから…それはごめん」
『っ…』
「騙してたんだよ、だから後で気の済むまで殴って良いから。でも今から喋るのは本当に正真正銘の僕だ、だからそれだけは聞いて欲しいんだ」
嫌なら良いよ、そんなこと言いながら抱き締める力を強めたんだからずるい。私は梓くんの背中に腕を回した。
「なまえが好きだよ、ほんとに。からかったら真っ赤になったり表情がくるくる変わったりつられて僕も楽しくなるんだ、そんななまえが好きだよ」
『ぅ、え…っ』
ほんとだよ、念押しのようにそう言う梓くん。
私は私できっと涙でぐちゃぐちゃの顔なんだろう。
『ば、かあ…!』
「うん、馬鹿なんだよ僕。なまえ馬鹿なんだ」
なんで楽しそうなの梓くん。私はちらりとそう思ったが今は涙と嗚咽の方が先らしい。うええっと情けない声があがる。
「ごめんね、でも好きだよ。なまえは?」
『ば、か聞かないでも分かってよ…!』
「だって聞きたいじゃん?」
さっきのしおらしい梓くんは一体どこへ。すっかり勝ち気な瞳に変わってしまったアメジストに見つめられたらもう私の負けは確定だ。
騙されたら負けなんですよ。
◎木ノ瀬梓/さとゆうさん