ひゅっ、と矢が空を切る音が静かな弓道場に響く。
俺は凛々しく的前に立つみょうじ先輩の後ろ姿を見ていた。
彼女の放った矢は真ん中を貫いていた。
『…久しぶりだったけど、意外と衰えてなかったよ』
「流石です、みょうじ先輩」
そんなことないよ、とくすくす笑う先輩。
俺が最後に見たみょうじ先輩は腰ほどまである長髪でいまはばっさりと肩までの髪になっていた。
『宮地たちも、お疲れ。インハイの結果も聞いたよ』
「木ノ瀬に、負けてしまいました」
『それも知ってる』
でも準優勝でしょ?おめでとう、と手が俺の頭にみょうじ先輩が在学中によくやられたそれ。
咄嗟にその手を掴んでしまった。
『…宮地、?』
「…子供扱い、しないでください」
俺がそういうとみょうじ先輩の目はまん丸く大きくなった。
「俺は、先輩が好きです」
『…』
恥ずかしさで今にも逃げ出したかったが逃げていてはこの人は追いかけては来てくれない。
たから、いま。
「だから先輩、こんなことされると期待してしまうんです。例えばそれがみょうじ先輩にとってなんでもなくても」
『…あ、のさ』
あの冷静で、余裕なみょうじ先輩が言葉に詰まるなんて始めてみた。もしかして動揺してくれているのか、なんてちょっと期待してみる。
『私、実は失恋してさ、だから恋愛に今ちょっとトラウマで、』
ああ髪を切ったのにはやっぱりこれが原因だったのか、狼狽える先輩を見ながらぼんやりと思う。
『だから、』
「待ちますから、急がなくていいです。片思い歴三年は意外と頑固なんです」
『…そんなに、想ってくれてたんだ…』
感慨深いように呟いている。
「四年でも五年でも、待ちます」
『…ありがとう、』
ごめんね宮地、そういって俺にゆるりと抱きついてきたみょうじ先輩に待てなくて迫るかもしれないと思ったが秘密だ。
先輩、待つとは言ったけれど待てなくなったら俺からいくかもしれないです。
慕ってるなんて、誰が言った?
(恋慕だって、言わなきゃわかんない)
宮地龍之介/桜星さん