200000 | ナノ
なぞる
『先輩、文化祭来ませんか』

後輩のなまえから毎月来る手紙にそんな一文が書いていた。
日程も書いてあり、自室に飾ってあるカレンダーと照らし合わせると丁度休日で、これなら帰国も兼ねて行けるかもしれない。

そう思い携帯を手に取って発信する。
どうやら部活は終わっていたようで三コール目でなまえは出た。

『もしもしっ』
「早いね、待ってた?」
『………そんなことは』

もごもごと誤魔化すように言うなまえに僕はばれないように笑う。
大体言いたいことは分かるのだけれど言わせたい僕は中々に意地が悪いんだと思う。

「そう。文化祭のことだけどね、多分行けると思う。翼も連れて帰るよ」
『ほんとですか!?』

きらきらしたような声で僕にそう聞くなまえ。
隠せてないじゃんばかだなあ、とか思ったけどそんな声を惜しげもなく発するなまえが可愛くて。
結局僕も馬鹿だなあ、なんて。


久しぶりの後ろ姿を見つけて、思わずその背中に抱きつく。

『ひゃ、!?』
「久しぶり、なまえ。元気にしてた?」
『あっ、梓先輩!?』

えっ、あっなんで!?って混乱しているなまえになまえが呼んだんでしょ?と言うと顔を真っ赤にさせていく。

『つ、翼先輩は…』
「あー、不知火先輩が居たからそっちに行ったよ」

ていうかさなんで一人なの、と僕が言うとなまえはよくわからなかったようで首を傾けた。
そうだこの子に鋭さは求めちゃいけなかった。

「いやなんでもない。ねえ、スターロード見に行こうよ」
『え、あ、う…いい、です、けど…』

じゃあ決まりね、僕は固まっていたなまえの手を引いて案外覚えていた校舎のなかを歩き出した。


「相変わらず気合入ってるなあ」

上を眺めながら歩くと不意につないでいた手が逆に引っ張られてつんのめる。

「なに?」
『あの、っ…えっと』

ゆっくりで良いよ、と僕が言うとなまえはまとまったのかきゅっと唇を一瞬だけ結んだ。

『先輩。…あの、去年、私先輩誘いたかったんですけど、でも断られるの怖くってだから、…言えなかったんです』
「うん」
『だから、っ…今年もし先輩と歩けたら言おうと思って』
「…うん」
『私、先輩がすき、です』

ああもう、ほんと可愛いんだからもう。気づいたら小さな体を抱きしめていて。

「僕も、好きだよ」
『っ…』

言葉をなぞって
(伝えたい言葉なんて、)(もう頭のなかにいくらでも溜まっている)


◎木ノ瀬梓/みゆうさん
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