200000 | ナノ
触れる
「なまえ先輩、」

強気な瞳がこちらを見る。
私は返事も出来ずに困惑していた。

だってなんで、なんでただの後輩にソファーで追い詰められてるの。

「俺も、男ですよ?」

掴まれた手に力がこもる。でもそれは痛くしようとしているんじゃなくて逃がさないという意思表示だ。
そもそも私の足の間に一樹くんの足があるから逃げることも不可能だけれど。

きっかけは、何だったんだっけ。
確かケーキ食べてて、あーんして、そんで眠くなって一樹くんに抱き着いた。
あれ、客観的に見たら私が悪いかもしれない。

「…もう我慢の限界なんですよ。とにかく先輩のキリが良いとこまで後輩で居ようと思ってたんですけど」

無理みたいで、そう言いながら一樹くんが私の髪を一束とってそれに口づけた。

『っ…!』
「もう多分、容赦できない」

私の心臓に手加減はしてくれないようだ。
触れたところが熱い



「なまえ先輩?」

ぷしゅう、と音をつけるならまさにそんな感じ。
俺より年上のくせに耐性がなさすぎる。…いやあったらあったでつまらんな。

『あ、うえ…』
「ぶはっ」

なぜ涙目なのか。思わず吹き出してしまう。そして俺はやっとなまえ先輩の上から退いた。

「なまえ先輩、可愛いな」
『っや、だそれやめて!』
「やめません。事実だから」

俺がそういうとなまえ先輩は一樹くんの意地悪と叫んだ。
好きな人ほど意地悪したくなる、っていうのはよくあることだろ?

◎不知火一樹/いち夏さん
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