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捨てる
今から行って良い?
そんなメールが入ったのは夜の10時ぐらいだった。
俺は風呂上がりにそれを確認して出かける準備を始めた。

今回も大方、あの話だろう。


『ごめんね、蓮二』

へにゃっと笑うその目は冷やしたのだろうが赤くなっている。

「…腫れているぞ」
『ああ、…一応冷やしたんだけ、どね』

俺の部屋に通し、分かったようにベッドに座る。

『蓮二、お風呂あがり?』
「ああ。お前のメールが入る前にな」

そう言いながら机の椅子を引いてベッドの前で止める。
俺はなまえと向かい合うように座った。

『え、ごめん…。断ってくれても良かったのに』
「俺がお前を放っておくと思うか。さあ、そろそろ本題だ。…また別れたのか」

俺がすっぱりとそれを聞くとなまえは返事もせずにへらと笑った。
いじましい。痛々しい。その言葉に尽きる。
メール一つでわかってしまうぐらいこちらは想いで溢れてしまいそうだというのに。

『なんで毎回こんなだろ?今回は、本気だったのに』

なまえは左手の薬指、指輪の嵌まっているところを撫でた。
「今回は」ってお前はいつでも本気だっただろうが。

『…もういっそ、蓮二と付き合っちゃったら楽かもね』

きっとなまえにしたら冗談。しかし数年分溜まった俺の箍が外れるには充分過ぎる言葉だった。

馬鹿が、俺はもう知らないぞ。糸を切ったのはお前だ。

その細い肩を軽く押した。それだけで簡単に沈む体。その上にのし掛かる。
なまえは状況がよく分からなかったようで困惑した顔で俺と天井を見つめている。

「…そんなこと、お前を想っている男の前で冗談で言うもんじゃないぞ」
『え、?』

ああもう、止まるわけない。
俺はなまえの手首を押さえて、なまえの口に自分のそれを合わせた。一緒に舌も捩じ込む。

最初は驚いたようで目を見開いていたなまえも目を閉じて応え出した。
何度も何度も、それを繰り返す。と、ふと視界にちらりと銀色が映った。

くそ、邪魔をするな。大体いつまでそこに居座るつもりだ。
舌打ちしそうなのを抑えて俺はなまえの薬指に手を伸ばして苛つくそれを引き抜く。
そうしてそのまま、ゴミ箱に投げた。


なまえはキスに熱中していて指輪がゴミの仲間入りをしたのさえ気付いていない。
いやもしかしたら気付いているうえで何も言わないだけか。


それで良い。前の男への想いなど、
ゴミ箱にでも捨ててしまえ
そうして、俺に甘えれば良いんだ。


◎柳蓮二
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