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大人も子供も

『こた先生!』
「うっぐおっ!」

後ろから突然の衝撃。
…この抱きつき癖は天羽からの伝授なのか。それとも元からなのか。

「後ろから抱きつくのはやめなさいって…言ってるだろ」
『えへ』

夜久(姉)とよく似た笑顔を浮かべながら俺から離れる夜久。
仄かに残る背中の温もり。微妙に名残惜しい。
お前どうしたんだ、という言葉に「なまえ」と声が被さった。

『すず君?』
「ご飯、行くぞ?」

声の正体もぐいっ、と夜久の腕を引っ張ったのも東月。
東月はそのまま夜久の手を握った。
夜久は昔から慣れっこなのかそのままぎゅっと握り返して東月に連れられて行った。
去り際に東月は一瞬夜久に見えないようにしてじろりと俺を睨んだ(ように見えた)。

多分、東月は俺と夜久の関係に気付いてるんだろう。
それで間違いなく良いとは思ってない。
ああ、そうだよ。俺の地位は夜久を、お前の大事なものを危ない方に導くものだよ。
だからお前の態度は正しいんだ。
だけどそれでも。
醜い心はとても言葉に出来なかった。


「…雨、か」

曇った窓ガラスを適当に手を擦り付ける。
保健室の窓の外に茂っている葉が雨に打たれて上下している。
その葉の間に、困った顔をした夜久が見えた。
困った顔は空を見上げて、はあとため息をついた様だった。

…あの様子じゃ、傘忘れたな。
今日の仕事も終わったことだし、送って行ってやるか。
俺は保健室の鍵を閉め、玄関の方へ向かった。


「夜久」
『ほあ…こた先生!どしたんですか?』
「傘ないんだろ?ほら、貸してやる」

ぽいっと投げた紺色の傘。

『え…、でもこた先生は…?』
「俺は濡れたって構わん」
『え、じゃあ…』

一緒に入りましょうよ。満面の笑みでそういった彼女。
見られたら危険だぞ。どこかで誰かがそう言うけれど俺は、

「構わない」と答えていた。


『こた先生濡れてない?』
「俺は濡れても良い。お前こそ濡れてないか?」
『大丈夫だよ!』

そう言う夜久の肩は黒くなっている。
持っているのが夜久のせいなんだろう。大分俺のほうへ傘を傾けている。

「夜久、濡れてる」
『あ…でも、』
「お前が濡れる方が困る」

そう言って夜久の手に自分の手を重ねて傾けた、そのとき。

「なまえ!」
『すず君?』
「…俺と一緒に帰ろう。送っていくから」

そう言って、なまえを自分の傘の方へ入れる。
いきなりのことでなまえの手から俺の傘が落ちる。

『え、ちょ…っ』
「っ…」
「それじゃ星月先生、さようなら」

先生と生徒。大人と子供。
決して越えてはならない境界線がそこにはあって。

でも、だからって。

「っ!?」
『こた、』
「…俺のだ。気安く触るな」

夜久を諦める理由にはしたくない。
夜久を抱き上げ東月を睨む。
東月は最初こそ驚いたように目を丸くさせていたが、

「…泣かせないでくださいね」

そう言って寮の方へ歩いていった。
東月の姿が見えなくなって、

『…ヤキモチ?』
大人も子供も変わらない
(………悪いか)(…嬉しい!)



◎水無月さんリクエスト
琥太郎先生/錫也にやきもち→俺のもの宣言

ちょこっと解説をいれますが
錫也さんははっきりしない琥太郎先生が嫌だったわけです
まあ泣かせたりしたら「………言いましたよね?」(良い笑顔)
と迫ってきますコワイネー←

リクエストありがとうございました!


2011.12.19 望


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