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ぜんぶ

『…』

窓の下では一樹くんが月子ちゃんの頭をぐしゃぐしゃと撫で回している。
会話は聞こえないけれど月子ちゃんは髪が乱れちゃうじゃないですかみたいなことを言ってるんだと思う。

なんで付き合ってないんだろう。ああそっか、私が彼女という立場に居座ってるからか。
私はぼーっとそんなことを考えながらその光景を見ていた。

「なまえ、どうしたの?」
『誉…』

なんでもないよ、と誤魔化したが誉にはなんでもお見通しのようで。
私の後ろの窓から同じような風景が見えたのだろう。誉がまったく一樹はと呟いていた。

その呟きに対して私は苦笑いで返すことしかできなかったけれど。


「なまえ!」
『一樹くん…、どうしたの?』

誉と桜士朗くんと移動教室で移動していたときに駆け寄ってきた一樹くん。
何故か来て早々両手を合わせてごめんと謝ってきた。

『え、やだなんで謝るの…?』
「今度のデート、実は生徒会が入った…」
『そっかあ…』

残念だけど仕方がないね、そう笑う私に悪いと謝る一樹くん。

「絶対、埋め合わせするから!!」
『無理しちゃ駄目だよ』

悪いともう一度謝って私の前から去っていった。

「…なまえ」

後ろに立っていた二人が眉間に皺を寄せてこっちを見ていた。あの桜士朗くんでさえ、だ。

『私、…"良い彼女"だった?』
「…良い彼女過ぎるよ」
「くひひっ誉ちゃんの言うとおり…偶には我儘言ったって良いんじゃない?例えば、マドンナちゃんと仲良くしないで、とかねー」

桜士朗くんにもばれていたか。私はため息を一つついて、作り笑いで。

『そんなこと思ってないよ』

二人が気付いて、一樹くんが気付かないなんて。じゃあ私たちの関係は何なんだろうか。


「もう会長!頭なでないでくださいってば!ぐしゃぐしゃになっちゃう!」
「良いだろー?お前の頭の位置撫でやすいんだよ」

会話が聞こえなかったからまだ耐えられた。
夕日が差し込む廊下でそんな光景を見て、会話が聞こえて。もう限界だ。

『…』

ぼろぼろと、涙が落ちていく。前にいる一樹くんは私の鼻を啜る音が聞こえてようやく振り返った。

「なまえ…!?どうした!?」

私の前に立ち手を伸ばしてくるけれど、それを迷いなく叩いた。ぱぁんっと乾いた音がして、一樹くんが月子ちゃんが目を丸くする。

『要らない…っ』

踵を返して反対に歩き始める私。後ろで一樹くんと月子ちゃんが名前を呼ぶけれど振り返れるわけない。だってこんな醜い感情。
一樹くんは月子ちゃんに生徒会室に戻るように告げて私を追ってくる。

「なまえ!おい待てなんで泣いてるんだ!」
『一樹くんには、関係ない…っ』
「関係なくない!俺は、お前の彼氏だ!」

そんなの名ばかりの立場でしょ。呟いたのが聞こえたらしい。

『生徒会が忙しいのなんて分かってる、分かってるけど…!頭、撫でたりなんてしないでよ…!』

誰かなんていわなくても分かったみたい。一樹くんが目を丸くした。

『…ばか、言わなくても分かっててよ…』

私は目を押えて歩き出した、のに直ぐそれは阻まれた。
後ろから柔らかく、壊れ物でも扱うように抱き締められた。私、そんな硝子みたいじゃないんだよ。

「ごめん…、ごめ」
『………嫉妬して、ごめんなさい』

そう言うと馬鹿それは嬉しいといわれる。一樹くんの気持ちがよく分からない。

「好きだ、…好きだ」
『…ん』
「頭撫でるのも、抱き締めるのも、キスするのも今から全部お前だけだ」
ぜんぶ僕じゃないと許さない
(好きだというのも、)(お前だけ)


◎未来さん
一樹で後ろからそっとぎゅう/切甘

遅くなってしまい申し訳ありません…

どうでしょう…
切甘になっていたら嬉しいです…(´・ω・`)

リクエストありがとうございました!

2012.04.20 望


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