100000 | ナノ
予約できない
「それで、月子がな」
『う、ん』
笑えているか分からない。だけれど笑わなきゃいけなくて。
隣に座っている東月くんは私のそんな気持ちに気付かずに話を進める。…"月子ちゃん"の話を。
「っと、ごめん…電話だ」
私に断りをいれて振動を続ける携帯をとる。
東月くんに気付かれないようにため息を一つつく。
「え?ああ…うん、じゃあ行くよ」
『…』
あ、なんとなく分かってしまった。
電話の相手と、これから言われることと、東月くんがここから居なくなるということが。
ピッと電話を切り、私に向き直る。
「ごめん、月子が…明日の小テスト教えて欲しいって…、今回成績にも関わるから」
『ううん、良いの。行ってあげて?』
ごめん、とまた一言そう言ってから東月くんは私の隣から居なくなってしまった。ほら私の予感的中。
私は振っていた手を力なく降ろした。
ねえ。
東月くんが月子ちゃんを優先したのっていったい何回目だろ。
それって東月くんじゃなきゃ駄目なのかな。
今って私と話してる途中じゃなかったの。
ねえ。
私って東月くんの彼女だよね?
その確認は自分でも空しく悲しくなるだけだった。
私は、二番目。何時まで経ってもきっと東月くんにとって二番目。
『そろそろ、潮時だよ、ね…』
一番になれないと分かっていた。それでもどうしても隣に居たかった。それが少しの間でも良かった。だから、もう満足。
私は打って保存しておいたメールを送信した。
別れてください、とたったの七文字のメールを送った。たったの七文字で今までの関係が切れるのだから、言葉って軽いようで重い。
『…』
「どういうことか、説明してくれ」
『だから、…そういうことなんだよ』
なんだこれ。教室の前で押し問答。
いつも東月くんと待ち合わせして学校に向かっていたから、私は出くわさないようにいつもより早く寮を出た、のに。
東月くんは教室の前で待ち伏せしていた。そして恐い顔で問い詰めてきた。
『…別れて、欲しいってメールした』
「だから、どうして?」
どうして、なんて。聞かないでよ。こんな醜い気持ち言いたくない。キレイにお別れしたいの。分かってくれないの?
「俺のこと、キライになった?俺は…なまえのこと大事にしてた、つもりだよ」
その言葉に、ぷちんときた。大事に、されてた?
気付いたときには手が出ていた。パァンッと乾いた音が廊下に響いた。
『大事に、してたの…?ごめん、全然分かんないよ…』
なにをどう大事にされたかなんて分かんない。分からないぐらい私の心は荒んでいた。
『っ…、』
「なまえ、っ!」
走り出そうとしたら後ろから抱き込まれた。逃がしてくれさえすれないの。
「っごめん、俺…ほんとによく分からないんだ…!彼女なんてなまえが初めてだから!」
『わたし、だって、東月くんが初めて、だよ…』
最初はトクベツだって言うでしょ。大事にして欲しいんだよ。
『東月くんの、一番ってなに…?月子ちゃんじゃないの』
「っ、」
『東月くんは…っ、いつも月子ちゃんのことばっかだよ…、私のそばに、居るんじゃない…!』
そう叫ぶ。責めるような詰るような声音で叫んだ。
そうするとぎゅうっと抱き締める力が強くなった。どうして、そんなことするの。
「ごめ…っ!そんなこと、」
『知らなくて当然、だよ…言ったことないから…』
「ごめん、ごめ…っ」
ごめん、なんて言ってほしいわけじゃない。そういうことじゃない。
『ね、私…近くに居て欲しかったよ、?』
「っ、いつも、そばにいるよ…俺の隣は、なまえが居なきゃ嫌だ…っ!」
私もね、隣は東月くんじゃなきゃ嫌なんだよ
傍らにはきみしか予約できない
◎流星潤さん
錫也で「いつもそばにいるよ」/切甘
遅くなってしまい申し訳ないです…!
ちょっと潤さんの思い描いてたものとは違うかもしれません…(´・ω・`)
錫也が驚きなぐらいへたれです
書いていて「へタレやん…!」と驚愕しました←
長編「一度だけ」、「天音 尚」も含め好きだと言って頂けて嬉しかったです//^▽^//
リクエストありがとうございました!
2012.02.08 望
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