100000 | ナノ
お前しか

「なまえー!」

帰り支度をしていた手を止めて顔をあげた。よっと扉の近くで手をあげ名前を呼んだのは、

『不知火先輩?どうしたんですか?』
「どうしたんですかって…おまえなあ…」

はあ、とため息をついた不知火先輩。
訳が分からない。どうしてため息をつかれたのかも。

「せっかく彼氏が彼女の迎えに来たのにこの仕打ち…!俺は泣きたい」
『えっ』
「おいおい…いくら何でも驚きすぎだろ!」

マジで泣くぞ、脅しのように言われて私は慌てて謝った。


驚きすぎって、驚くに決まってる。
だって、
―――誰も身代わりで彼女にした人の迎えになんてくるなんて、思わないでしょう?



学園に女子は月子と私が居て、どう考えたって誰が考えたって私を選ぶ人は頭がおかしいか目がおかしいかマニアックな人だ。

まさか、学園のトップがしかも私の想い人でもあった不知火一樹先輩が告白してくるなんて思いもしないだろう。
ましてや、不知火先輩は月子が好きだと思っていたのだから。

でも数日後納得した。
不知火先輩が私に告白してくる前日に月子に恋人が出来ていたことを知ったのだ。

ああそっか、と自分でも悲しいぐらい素直に納得できた。そうだよね、と納得するしかなかった。


「なまえ?もう食べないのか?」

半分以上皿のうえに料理がのっているというのに箸を置いた私に不審そうに錫也くんが尋ねた。

『うん、あんまりお腹減ってなくて』
「でもなまえちゃん朝ごはんも食べてなかったじゃない!」
「なに!?…俺だったら考えられないぜ…!」
「哉太みたいな大食漢には言われたくないよね」
「お前にも言われたくねーよ」

哉太くんと羊くんがいつものように言い合っているのをBGMに心配そうに眉を寄せる月子と錫也くんに「大丈夫だよ」と笑った。


『はあ…』

まだまだ、だなあ…。
体重計から降りると針が大きくぶれた。

ダイエットなんて、するもんじゃないのは分かっているけれど。
月子には私なんて程遠いから、少しでも月子みたいになれるように。
不知火先輩に、捨てられないように。



「なまえ、最近何も食べてないらしいな」
『食欲なくって』

苦笑いで答えると不知火先輩は私の腕を握った。

『っ、』
「これでも心配してるんだ。頼むから倒れることなんてないようにしてくれよ?」

悪いほうにじわじわと転がっていたものが今の一言で一気に坂を下るように転がり始めた。

倒れると、…見舞いに行かないと体裁が悪いから?

『心配、してくれるんですか…』
「おい、いくら何でも冗談キツいぞ」
『冗談なんかじゃありません』

そう言うと不知火先輩は私を開放し、なに言ってるんだとでも言うように目をまんまるくしていた。
きっと今が、潮時。

『不知火先輩。別れてください』
「なんでだ…、俺のこと嫌いなのか」
『私、月子の代わりになんてなれない…!』

いくら見た目が変わろうといくら中身が変わろうと。
突きつけられる現実は"私が月子じゃない"ということだけだった。

「意味わかんねえよ…」
『私は、…っみょうじなまえなんです…!月子じゃない…っ!』

ぼろぼろと涙が溢れてああ格好悪いなあ。

「解ってる!んなもんは出会った時から理解してる!なに言ってんだお前…」
『ホントのことですよ…!』

放してください!
掴まれた手を強引に振りかぶろうとしたら意識がフェードアウトした。

ああ、倒れちゃった。ホント迷惑かけちゃった。


『ぅ…』
「なまえ!?良かった…!」

チカチカする視界が徐々に慣れてきた。
どうやら保健室のようで、夏に熱中症で寝かせられた時に見た天井と一緒だった。視界の端には不知火先輩。

『…私、帰りますから…っ!』
「ちょ、おい!?」

不知火先輩を避けて私は保健室から走って出る。だって顔合わせらんない。
無我夢中で走った、のに。

「馬鹿野郎!また倒れる気か!!」

追いかけてきた不知火先輩にあっという間に捕まって腕の中。

『っ…私、月子じゃないのに…っ』

そう言うと「またそれか」と呟いてため息。そしてあのな、と前置く。

「…俺は、お前を月子の代わりとして見たことなんて一度もないぞ」
『嘘…っ』
「嘘じゃない。誰がこんなことに嘘付くか。確かに…一時期月子が好きだったこともあったが、今はなまえだけだ」

ぎゅう、と抱き締める力が強くなる。
でも、だって。ひねくれた心の私は納得できないでいる。

「俺はお前だから好きなんだ」
『っ…ほん、とに?』
「…ああ、」

私月子じゃないけど傍に居ても良いんですか。涙混じりにそう問うと不知火先輩は

「…ばーか、
お前しか傍に置かない」
(貴方の言葉で、行動で)(私の心は溶けていく)


おまけ
『じゃあなんで月子に恋人が出来た次の日なんかに告白してくるんですか紛らわしい!』
「いや…それはだな、その…」
『…やっぱり、うそだったんですか…?』
「………月子から告白していたから、その…なんだ。
俺も負けてられないなと、思いマシテ…」
『………先輩のばか…』


◎咲さんリクエスト
不知火と月子みたいになりたいヒロイン/「お前だから好きなんだ」/抱き締める

どうでしょう…切甘…´・ω・`
しかも長いよ!短編中過去最長だったかもしれません…!
長文すいませえええええんんんん!!!!

リクエストありがとうございました


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