隣
『あ…』
「おっ!特等席を引いたのは更科だぞー!残念だったなお前ら!」
豪快に笑う直獅先生の声とうわあマジかよ席交換してくれよ、とせがむクラスメイトの声が聞こえる。
私、別にどこでも良いんだけど、な。
誰かに交換しようとすると争奪戦の開会なのでどうしようか悩んでいると、誰かが私の肩を叩いた。
「弥白ちゃん、窓際かー良いなあ」
『月子ちゃんは何処の席?』
「真ん中くらいだよ、哉太と羊くんは近いんだけど…錫也がまだ引いてなくて」
近いと良いんだけど、と呟く月子ちゃん。
そうだよねえ。皆で固まってた方が楽しいよねえ。
考えてみれば、私も月子ちゃんと離れてしまっているのだ。うーん…隣とか前の席が話し易い人だと良いんだけど。
「更科さん、隣?宜しくな」
『………』
ぱくぱくぱく。
きっと私の顔はアホ面だと思う。具体的に言えば金魚が餌を貰うときのような感じ。
話し易い人が良いって言ったじゃないか、頼んだじゃないか神様!
ある意味私にとってはとってもとってもとっても話し辛い人なんだよ、―――東月くんは!
『あ、っ…、えと、宜しく、お願いします…』
ああ、可愛くない。
私は俯いて小さな声で言うしか出来なくて早急に先程から自分の席になった席に座る。
左隣、つまり東月くんが座っている方から視線を感じるが顔はまったく上げられない。
『(う、あああ…!)』
「よっしゃあ全員新しい席に座ったなー?とりあえず1ヶ月はこの席だからなー」
そう言った直獅先生に前の方からブーイング。
直獅先生はそれを気にしないフリをしてタイミング良くチャイムが鳴りそそくさと出ていった。
東月くん、月子ちゃんたちのところ行かないのかな。
未だに自分の席から動かない東月くん。
どうしてだろう、こんな席に居たってつまらないだろうに。
というか、さっさと早く行ってください心臓が持ちませんお願いします。と心のなかでは大懇願中だ。
だって、だってだって。
自分の好きな人が隣の席だなんて、心臓、もつわけないじゃない!
未だに鼓動が五月蝿くがなりたてる。
黙れ鎮まれ!東月くんには月子ちゃんという可愛い可愛い天使みたいな幼馴染みちゃんが居るんだから期待するだけ無駄っていうか、あ、自分で言ってて虚しくなってきた。
とにかくこの一ヶ月で心臓が大きな傷を負うのは間違いないと確信した。あらま。
まさかの、隣だったり