隣に幸せ | ナノ

名前呼びにトライ


やっと普通に(対東月くん)挨拶が出来るようになってからもう一週間。

『お、おはよう、東月くん』
「おはよう、更科さん」

いつもと同じように笑顔で返してくれる東月くんが神々しすぎる。
鞄を机の横に掛けて自分の席につく。

「更科さん、昨日の課題やった?」
『えっ!?課題とか、あったっけ…』
「天文力学のプリント、貰わなかった?」

天文力学、天文力学…。
まさか、と思って机のなかを漁り天文力学の教科書を取り出す。
ぱらっと開くと、そこには、綺麗に二つに折られた白紙のプリントが、あったとさ。

『ああ…っ!やってしまった…!』
「俺のプリント見る?」

東月くんが苦笑いしながら解答欄の埋まったプリントを取り出す。

『ううん、自力で頑張る…!頑張れば間に合う、はず!』
「…頑張ってな」
『ありがと!それと東月くんの好意を無下にしてごめんね…!』
「ああ、良いんだよ。気にしないで」

ああもう良い人だ。私は頭の片隅でそんなことを思いながらプリントに取りかかった。



『な、名前呼びぃ!?』
「そうだよ!絶対その方が良いもんそうしようよ!」

朝頑張って終わらせた(結構ギリギリだった)プリントを先生に出しに行った帰りだったwith月子ちゃん。

議題は東月くんを名前呼びするかしないか、ということである。

『む、むむむ無理!!恥ずかしくてそんなこと出来ない!』
「大丈夫だよ!そんな緊張することないって!ほらとりあえず私で練習してみよう?」
『す、…す、ずやくん』
「………弥白ちゃん可愛いよ…!」

言葉につまづきながら言うと月子ちゃんが抱き着いてきた。ええええなんでえええ!?

「大丈夫いける!」
『何処が!?何処らへんを見てそう思ったの月子ちゃん!』
「可愛いから大丈夫!」
『月子ちゃんお願いだから眼科に行って今すぐ』

親指を立ててウィンクする月子ちゃん。そんな月子ちゃんの方が可愛いのは間違いない。


すずやくん、すずやくん。
頭の中では普通に言えるのに、


『す、東月くん!』
「(す…?)どうしたんだ?」
『い、や何でもないや!ごめんなさい!』

そして逃走。無理に決まってる名前呼びなんて。
きっと私が名前呼びなんて始めてしまったら"なにこいつ超馴れ馴れしいんだけど"とか思われちゃうに違いない。あっいや東月くんがそういう人間だと言ってるんではなく…っ、

『わ、私みたいなちんちくりんに名前呼ばれたって嬉しくないよ!』

ということが言いたかったのである。

「そんなことないよ!?弥白ちゃんはちんちくりんなんかじゃないよ!」
『あれえ!?結論の方向が間違ってるよ月子ちゃん!』

問題は私がちんちくりんだとか違うとかそういうことじゃない。

「…別に普通に名前呼びすれば良いんじゃね?」

ぼそっと流れで一緒に居た七海くんが呟いた、が

『その普通が出来ないから困ってるんだよ七海くん…!』
「そぉか?」

そうだよ!!!と必死の形相で叫ぶと、悪かったよ…!と謝られた。
別に怒ってるわけじゃないけども。

『きっと七海くんなら平気なんだけどなあ…』
「おいそれは俺が恋愛対象外だと言ってるんだな、そういうことなんだな!?」
『哉太くん…うん、普通にいえるなあ』
「ガン無視だな!!!!」

かなたくん、すずやくん、かなたくん、すずやくん。うーん…。

『七海くんの名前呼びから慣れていくことにする!』
「ああ俺はステップアップの踏み台かそうか」
『協力してください七海くん…!!』

土下座よろしく、机にくっつくまで頭を下げると七海くんの焦る声が聞こえた。

「べ、べべ別にそこまで必死に頼まなくてもやってやるよ!」
『ほんと!?』
「そ、そのかわりお前のことも名前で呼ぶからな!」
『ありがと!!』

やったあこれで慣れていけばきっといつかはいけるはず!
うーん…でも、迷惑だったらどうしよう…すごいショックだあ…。

「(なあ…これって俺と錫也って違いだから呼べねえんじゃねえの?)」
「(うん、多分そうなんだけど…でも気付いてない弥白ちゃんも可愛い!)」
「(………俺は一体何を)」


『哉太くんおはよう』
「おーっす…(おお、ほんとに呼んでやがる)」
『す、…東月くんおはよう』
「………おはよう」

あれ、あれれ。いつものように返してくれるあの笑顔が一週間目にして消えてしまった。え、なんで。あ、やっぱり迷惑だったとか。
だよね。ですよね。だって私月子ちゃんみたいに可愛くないし優しくないしこれといったとこもないし。

私は少ししょげ気味に自分の席に戻った。


名前呼びは前途多難

「なんで、お前は、名前呼び、なのか…詳しく聞かせて貰おうか…?」
「こっここここえーから!!!!ちょ、落ち着けって…!!」

これが、落ち着いてれらるか。
だってどうして俺は未だに苗字だというのに、お前は。

腹いせに哉太のつま先をぐりぐりかかとで踏んでやった。









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