short | ナノ
「あっ今日ってそういや七夕じゃん!?」
『…あー…そういやそうだったね』

所謂メルヘンチックな友達が空を見上げて叫んだ。

「良いよねー!わたし織姫と彦星の話大好きなのー!」
『私は………、あんまり好きじゃない、かな』

そう呟いた一瞬後、机のうえに置いていた携帯が震えた。
なんでなんでー!?と問い質してくる彼女に、ごめんと謝っていまだに震える携帯を持って教室を出た。


『もしもし、羊…?』
「ごめんね、いま大丈夫?忙しくない?」


私がすぐに出られなかったのを気にしてかそんな台詞が出てきた。

『大丈夫、気にしなくて良いよ?』
「そっか、良かったあ。
そうだ、いま何処に居るの?」
『いま?えっと…学校』
「そっか、分かった」

それだけ言って羊は電源をピッと切った。
え、………それだけ、?

廊下で呆然としているとまた電話。
今度は月子。

『もしもし…?』
「なまえ?いまから学校、出れる?」
『うん………』
「じゃあ校門で待ってるね!」

月子も羊と同じように言いたいことだけ言ってぶちりと電話を切った。

うまく働かない脳ミソで、教室まで鞄を取りに行って学校を出た。
教室に戻ったときに例のメルヘンチックな彼女に「どうしたのそのヒドイ顔!」と言われた。
そんなに変な…顔か。地味にショックを受けつつ月子に言われた通りに校門に向かった。


「なまえ!」
『月子と錫也…に哉太』

なぜだか月子と錫也に哉太が居た。

「なんで俺がついでみたいに言われてるんだオイ」

哉太に突っ込む余裕もない。
我ながら羊の行動にぼろぼろである。

「なまえ?大丈夫か?」
『錫也…ん、だいじょーぶ…』

よしよしと錫也に頭を撫でられて、少し落ち着く。
でもやっぱり何処かがぽっかり空いたような。そして埋められるのはただ一人。

「どーせ羊絡みだもごっ!!」
「かーなーたーくーん」
「むむやっ(すずや)!?」

口を塞がれた哉太は素敵な笑顔の錫也に連れて行かれた。
首を傾げていると月子が私の手を掴んだ。

「もう!なまえいこっか!」
『ん、』

そういえば…どこ行くんだろ?



『…星月学園、で何すんの?』
「ふふっ、お楽しみ!」

ぱちんとウィンク。ああ可愛い。可愛い子は何をやっても絵になるのだから得である。

「こっちこっち!」

そして連れてこられたのは屋上庭園だ。
何するのかなあ…、と思っていると
「いろいろ持ってくるからちょっと待ってろな?」と錫也が月子並に良い笑顔で笑って
月子と哉太を連れてどこかへ行ってしまった。

…私、部外者なのに一人でここに居て良いのかな。
ああでも…今は独りになりたい気分だから…良いかも。

ぼんやりと、星が瞬きだした空をぼんやり眺めていると
ふわりと何かがかけられた。

「そんな格好してると風邪、引いちゃうよ?」
『、へ…』

この声は。え、だって。なんで。どぉして。
振り返ると、綺麗な朱が出迎えた。

『よ、う…?』
「会いたかったよなまえ!」

かけられた毛布ごしにぎゅうっと抱きしめられた。

『え、なんで…』
「だって今日は七夕でしょ?彦星が織姫に逢いたいように、僕だって君に逢いたかったんだ」

だから今日一日だけ日本に来たんだ、と悪戯に笑った。
その姿は最後にあった時となんら変わりはない。

『っ、言ってくれれば、良かったのに!羊の馬鹿!』
「だって君を驚かせたかったんだもん。だから怒ってないで、一緒に星見ようよ。
月子たちがせっかく準備してくれたんだから」

よく見れば、羊の後ろににやにや笑いの哉太と微笑ましそうに笑う錫也と月子が居た。

『…うん』
「良かった。なまえの怒った顔も可愛いけど、やっぱり笑った顔が一番好きだな」

そんな恥ずかしい台詞をさらっと言うところもまったく変わっていなかった。


「あれが織姫のベガ。それであっちが彦星のアルタイル」
『ぜんっぜん分かんないんだけど…』

良い意味で空には満点の星空。
羊が後ろから指を指して教えてくれるがぶっちゃけさっぱり。

「ふふっ、でも綺麗でしょ。今日は晴れて良かったね。
織姫も彦星も会えてるかな」
『………羊は明日にはもう帰るんだよ、ね』
「…帰るけど、僕らは一年に一回しか会えないっていうルールがあるわけじゃないよ。
だからなまえが呼んでくれたら僕は君のところに帰ってくる」

だからそんなに寂しそうな顔をしないで?と私の頬を撫でた。

「君が悲しいと僕も悲しい」
『また、会える?』
「いつでも、ね。僕は彦星とは違うから、そして君も織姫とは違うでしょう?」

頷くと羊は綺麗な顔でふふっと微笑んだ。

「でももし僕が彦星で君が織姫で一年に一回しか会えないっていうのなら、
一回の時に君を永遠に離さない」
『………それはカミサマが怒っちゃうんじゃ、』
「神様?」

そんなのに僕らの恋が邪魔できると思う?
(君への想いは、神様なんかに邪魔できない)



◎たなばたーん!