short | ナノ
「みょうじさん、」
『東月くん』

窓際の席。
私の頭の上から顔をひょこりと出したのは隣の天文科の東月錫也くんだった。

「ちょっと数学の教科書忘れちゃってさ、貸してくれないか?」
『あ、うん良いよ…ちょっと、待ってね』

ごそごそと机のなかを漁る。
確か次の次の授業が数学なので机のなかに入ってる筈だ。

『あ、あった』

あれ、でも…私なんか数学の教科書…。

固まっていると東月くんは差し出してるように見えたのか
ありがとう、と笑顔で自分の教室へ帰っていった。

今日も、かっこいいなあ…。
後姿を眺めながらぼんやりそう思う。

『っと、…やばっ、課題終わってなかった…』

私は急いで机のうえにひろげっぱだった課題にとりかかった。
つっかかたことは頭のなかからすっぽ抜けた。


「みょうじさん」

東月くんは数学の時間が終わってすぐに返しにきた。
律儀だなあ。

『あ、東月くん』
「教科書、ありがとう。それとこれはお礼、な?」

教科書が机におかれ、その上にぽんっとかわいらしいブルーの小包が置かれた。
これは、もしや。

『東月くんの作った…お菓子?』
「うん、口にあえば良いけど」
『口にあうって…東月くんのお菓子は美味しいよ!』
「ははっ、ありがとう」

そういってじゃあ俺は戻るから、とまた颯爽と教室に戻っていった。
さて、次は数学かあ…。一応この前の授業の復習しとくかー…。

そう思って、ぺらっと前の授業のページをめくった、らだ。

"東月くん、すき”

………は?、
え、あ…さっきの突っかかりは…こ、こいつかああああ!!!!

ていうか見られた?見られたよね!?なに書いてんの私アホなの?!
本人に見られるなんてそんなことがあって堪るか!

願わくはこのページを東月くんが開いてないことを願う。
とりあえず消しゴムを携え、そのはっずかしい文字の上を擦ろうとした。
すると、その文字の下に書いた覚えのない文があった。

"俺も、みょうじさんが好き"

この文字の形は私じゃない。

そのうえの文を書いたのは一昨日。
それまで私はこの教科書を誰かに貸したり、開いたりもしていない。

ということは、ということは。

それを理解した途端、多分顔が真っ赤になった。

知らないうちに伝わっていた気持ちは、
どうやら実ったらしい。

繋がる想い
(え、え、ええぇぇぇっ!?)((ははっ、あせってるなー…))


◎錫也はぴばー!大好き!